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出会いの湯/場

 「大学読書人大賞」最優秀推薦文が決まりました。皆様、ご投票ありがとうございました。ただいま、5月4日の討論会に向け、関係各位と最終調整中です!

 先日、東京は目白台の「月の湯」という銭湯で、古本市が開かれました(月の湯古本まつり)。いくつかの新聞でも紹介されていましたので、ご存知のかたも多いかと思います。
 銭湯の脱衣所や洗い場に、各地の古本屋さんからやってきた古本が置かれていて、それを見て回る方々で浴場はいっぱいになっていました。ケロリンの黄色い容器に古本が入っているのを見ると、それが洗面桶として扱われるのは銭湯という文脈があればこそなのだな、と、いまでは当然の発想になってしまったデュシャンの暴行が思い出されます(ちょっとおおげさに言い過ぎました)。
 会場で私が買ったのは、ジャック・カレルマン『おかしな道具のカタログ』。役に立たない道具のカタログ、として、皆さんもどこかでその名を聞いたことがあるのかもしれませんね。パルコ・セゾン文化を感じさせる、77年の出版当時の新聞記事の切抜きが挟まっていました。

 カレルマンの名前は、孤高の現代数学者グリゴリー・ペレルマンの名前とともに、あるいは彼の作品「マゾヒスト用コーヒー沸かし」の図版とともに、以前から私の頭のなかに入っていはしましたけれども、こちらから積極的に探して手に入れようとは思っていませんでした。たぶん、この古本市で出会わなければ、私が『おかしな道具のカタログ』を手にとることはなかったでしょう。
 狙った情報を精度よく探しだすための技術は、インターネットの発展とともに、かなり洗練されてきました。と同時に、思ってもみなかった情報によって新たな興味を惹起されることを、すなわち偶然の出会いを、積極的に求める(逆説的な表現ですね)ための技術もまた、その重要性を再認識されつつあります。
 旧来そうした役割を担ってきたものは、たとえば古本屋とか、書店とか、雑誌とか、文芸誌とか、喫茶店とか、町とか、さまざまあるわけですが、それらは決して単一の情報であるのではなく(情報の単位にもよりますが)、いくつもの雑多な情報の集まる"場"であるわけです。

 「大学読書人大賞」は、来たる5月4日に、大きな山場を迎えます。多くのかたのご来場を祈りながらも、当日会場が空席ばかりだったら......とか、当日直下型地震が東京を襲ったら......とか、当日一切の書籍を焚書にする法案が施行されたら......とか、さまざまな不安は尽きません。しかし、これはかなり手前味噌ではありますが、もし当日東京が大怪獣に粉砕されてしまったとしても、「大学読書人大賞」によって生じた、各サークルでの議論の"場"の、想像上の討論会の"場"の、あるいは新たな本との出会いの"場"の効力というものは、それだけでひとつの意義を持っていると思うのです。

 銭湯での古本市で、"湯"のイメージに引っ張られながらこの賞のことを考えると、そんないくつもの"場"が脳裡に去来しました。

 4日の公開討論会では、討論者の皆さんに対して、ご来場のかたが質問をする時間も設ける予定です。皆さんも討論に参加し、異質な考えかたの交流の"場"としていただければ、賞委員としてはたいへんうれしく思います。そして願わくは、そこから大学生読書人どうしの対話/討論の網が、上野の会場を離れても、大きく広がっていきますよう。

(渡辺)