塩の街

  • 『塩の街』

  • 有川 浩
  • アスキー・メディアワークス
  • 1,680円(税込)
  • 2007年6月
  • 塩によって世界中が埋め尽くされる、塩害の時代。崩壊寸前の東京で暮らす男と少女に、運命を変える一人の来客が訪れた……。第10回電撃小説大賞受賞作に大幅な改稿と番外短編を加え、ハードカバーとして新登場。

現代社会の問題を重ねられる、恋愛物語。

推薦文No.1-3
日本大学法学部文芸創作研究会

アニメ化が決定している、図書館戦争シリーズの著者、有川浩氏のデビュー作に番外編を加えて単行本化したものである。
宇宙から飛来した大きな塩の結晶が次々に人を塩に変え、死に至らしめていく......。「塩害」自分がいつ塩になるかわからない、突然変わってしまった世界で人々は何を思い、どう生きていくのか。

女子高生の真奈と自衛隊員の秋庭。塩害が無かったら交わることのない二人が出会い、物語が始まる。


本書にある「自分の関わった人さえ不幸にならなければそれでいい。自分の見る部分さえきれいならそれで。知らないところにどれほど汚く、醜く、残酷な部分があっても、それを直視することがなければ、それは知らなかったことにして穏やかでいられる。」という言葉。これは、現代の多くの人間の価値観を端的に表している。今日問題になっている食品偽装や、イージス艦と漁船の衝突の際の情報隠蔽等は、自己の平穏と利益だけを見て、他人の不利益に目を瞑った結果だ。


「自己の利益を求めてなにが悪い?」これは、本書のテーマの一つであると思っている。
死が身近になった世界で、自分の中の優先順位や身勝手さが、明確になっていく。その中で、登場人物たちが何を選び、そして何を切り捨てていったか、是非見て欲しい。


ラストに向かうにつれて、ラブストーリーの要素が濃くなり、真奈の心の動きが早く、ついていけない部分も多い。前半の恋愛描写が甘くないので、余計、急展開というのを感じさせてしまう。だが、明日愛する人が塩になってしまうかもしれない、という極限状態だということを考えると、不自然ではないだろう。
 
決して軽い話ではないが、テンポ良く進むので、読みやすい作品となっている。
また、最初2つの章は短編としても読めるので、普段本を読まない方にもお勧めだ。
帯に自衛隊三部作という字があるが、専門用語もほとんどなく、ラブストーリーが中心となっているので「自衛隊物はちょっと......」と敬遠していた人にも是非読んで欲しい作品だ。

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