塩の街

  • 『塩の街』

  • 有川 浩
  • アスキー・メディアワークス
  • 1,680円(税込)
  • 2007年6月
  • 塩によって世界中が埋め尽くされる、塩害の時代。崩壊寸前の東京で暮らす男と少女に、運命を変える一人の来客が訪れた……。第10回電撃小説大賞受賞作に大幅な改稿と番外短編を加え、ハードカバーとして新登場。

最優秀推薦文

『塩の街』への招待

推薦文No.1-5
立教大学文芸思想研究会

 「地球終末」型SFは昔から人々に広く受け入れられてきた。人類滅亡の危機という世界と、それを乗り越えようと奮闘する主人公の魅力に、読者は惹きつけられるのだろう。

 私たちが今回紹介する小説『塩の街』も、地球終末型の正統派SF作品といえる。しかし、人類の生存を脅かすものは、なんと「塩」であった。謎の巨大な白い隕石らしき物体が落下してから世界の各地で人が次々と塩になって崩れ去ってゆく現象が発生。人々はそれを「塩害」と呼んだ。塩は着々と街を飲み込み、社会を破壊してゆく。規律も秩序もなくなり、人類は絶望の淵に立たされた。大切な人が次々と塩の彫像と化してゆく中で、人々は何を思い、どういった行動に出るのであろうか。
 先ほど述べたように、この小説は正統派のSF小説である。ストーリー展開もある程度予測できるのだが、それ故読者が抵抗なく物語の世界に入っていけるのである。ひねりすぎた設定や複雑な展開であると、途中で飽きてしまうことがあるが、この作品はそんなことなく、流れるように読み進めていくことができる。また登場人物のキャラクターが綿密に描かれていて、自然と感情移入できるところも、作品が読みやすい理由であろう。SF作品であるにも関わらず、暴力的なシーンやグロテスクな表現が少ない点も、従来のものとは異なる点であろう。思わず目を背けたくなるような残酷なシーンなどがあると読むのをためらってしまうが、この作品にはその心配はない。人々の体を蝕むものは「塩」であり、人間が塩になってゆく描写も美しい。冷たく、悲しいけれども美しいこの世界観は、男女問わず受け入れやすいものであると感じる。
 設定は非現実的ではあるが、登場人物の葛藤は非常に共感できるものである。特に、物語全体を通して登場し続ける「真奈」は、私たちと同世代ということもあって共感する点が多い。自己中心的な考えだとは自分で分かっていながらも、大切な人を失いたくないともがく。世界は綺麗なものではなく、汚い部分も含んでいる。それに気付きながらも、受け入れることに怯えて閉じこもってしまう。もう子供ではないけれど、大人になりきれてはいない。この微妙な年代だからこその悩み・葛藤を、彼女は代表して示してくれているのである。
 この作品は、王道の展開ではあるがネタの斬新さにまず驚かされた。そしてSF小説といえども数字や専門的な用語を多用していないため、これらの小説にありがちな「本が読者を選ぶ」ということがなく、幅広く受け入れられるであろう。地球の危機という設定ながらも、今の若者が好む「真っ直ぐな愛」が根底に流れている。新しさを感じさせる作品であるという印象が強かった。
 昨日も今日も明日も、その先も同じことの繰り返し。現状は簡単には思い通りにはいかない、惰性的な毎日を過ごす私たち。失ってから気づくことは、意外に多いのかもしれない。この作品はそんなことを気づかせてくれる。これが、私たちがこの作品を同年代の方々に推す理由である。これを読んで『塩の街』に少しでも興味を持ち、手にとってみようと感じて下さる方がいたら幸いである。

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