青年のための読書クラブ

  • 『青年のための読書クラブ』

  • 桜庭一樹
  • 新潮社
  • 1,470円(税込)
  • 2007年6月
  • 伝統あるお嬢様学校の聖マリアナ学園には、校内の異端者が集う「読書クラブ」が存在している。そこには、学園史上抹消された珍事件が記録された秘密の「クラブ誌」が、名もない女生徒達によって記録され続けていた――。

かえりみず突き進む少女たち

推薦文No.3-1
法政大学文学研究会

『青年のための読書クラブ』は、読み始めると止まらなくなる小説である。

陳腐な表現で申し訳ないが、本当なのだから仕方がない。とにかく読ませる速度が凄い。そこここに散りばめられた巧みな表現や文章の小気味良さに乗せられてするすると引き込まれてゆく。そのままどんどん読み進む。面白い小説を読んでいると最終的にどういうオチがつくのか待ち遠しくなるのが普通だが、この作品を読んでいるときは違った。残り少なくなるページが惜しい、読み進んでゆくことそれ自体が楽しい。
名門女子校を舞台に数々の年代を描いた、短編連作の形式をとる小説だ。政治家の娘やら元華族やらの家柄を背負った少女たちがしずしずと通う。校風は清楚でおしとやか。髪型は三つ編みもしくは短髪。校則はもちろん自主的に守る。思わず本の発行年度を確かめてしまいそうな設定だ。おまけに現代の主流とは大きく外れた文体の古めかしさもあり、読み始めは硬い印象を受ける。それでもとりあえず進んでみると、中身はとにかく無茶苦茶である。読者を置いていきかねない速度で猛然とかっ飛ばしてゆく。
登場人物からして凄い。内気で引っ込み思案なお嬢様から突如としてロックスターに変貌したもの。吹き荒れるバブルの波に乗り学園に革命を起こそうとしたもの。自分でも知らぬ間に謎の怪盗にされていたもの。
どの章をとっても秀逸ではあるが、私は特に第一章を推したい。
彫像のような美貌を持ちつつも全身から漂う貧乏臭さによって爪弾きにされている孤独な転校生、烏丸紅子。逆に生まれにも育ちにも恵まれながら容貌の醜さから誰にも受け入れられない才女、妹尾アザミ。並外れた頭脳を持ちながらそれを活用する機会を見いだせずくすぶっていた彼女は、代わりに美しいが機転のきかない紅子をあやつり人形のように動かし学園を影から支配してやろうと考えた。彼女は紅子に徹底的な演技指導を施し、自前の知性を植えつけて、少女の夢をそのままかたちにした素敵な王子様に仕立てあげた。そして少女たちの憧れの最高峰である王子の称号を獲得し、ついには学園の頂点を獲るのである。
最初は訳がわからないながらもせっせと働く紅子の一生懸命さに胸を打たれる。だが後半部分に突入すると、アザミの魅力がぐっと増す。最後には終わりをあっけらかんと受け入れた意外とたくましい紅子に比べ、裏方に徹していたからこそ深く傷つくアザミの姿は、それまでが傲慢で自信たっぷりであっただけにいっそう切ない。
策略をめぐらし、懸命に努力し、そしてついには成功を勝ち取る。王道とも言える普遍的なパターンだ。しかしこの作品が数多ある他の作品と一味違うのは、目指すものがあまりにも無意味である点だ。美しさがあり賢さがあるのなら他に目指すものはいくらでもあるだろうに、彼女たちは学園の人気者の座を目指す。他の章に登場する少女たちもまた、別に必然性のない行動に向けて真っ直ぐ軽やかに走ってゆく。将来に役立つようなことは何ひとつないうえになにかが身を結ぶわけでもない、誰かの役に立つわけでもない、誰からも褒めてはもらえない。それでも真っ直ぐに突き進む。無謀で馬鹿げていて滅茶苦茶で、だからこそ見ていてすがすがしい。挫折を迎える話ですら晴れ晴れとしている。私もなにか頑張ってみたいなあ、と変な対抗心すら沸いてくる。
最後に、深く没入した作品を読み終えるとなんだか寂しくなってしまうものだが、この小説はとても読後感の良い終わり方をしているため、未練はほとんど残らない。短距離走を駆け抜けてきてゴールテープをスパンと切るように気持ち良く表紙を閉じることができる。苦さも含めて爽やかな、本当に最初から最後まで、とってもいい感じの本である。

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