AURA

  • 『AURA』

  • 田中ロミオ
  • 小学館
  • 660円(税込)
  • 2008年7月
  • その日、教科書を忘れた俺は、夜半に忍び込んだ学校で魔女と出会った――。崩壊する日常。跋扈する妄想戦士たち。そして襲い来る敵。「世界に不思議なことはあってもいいんだ」。田中ロミオ、渾身の学園ラブコメ!

剰りに変則的なストレィトラブストーリー

推薦文No.1-2
一橋大学文芸部

 小学時代。僕はかつての友人と共通の仮想世界で遊んでいた記憶がある。名前等、どのような世界であったかは忘れた。ただ英雄のように万能で、あらゆる対抗力が無効化されるといったチートな性能を持っている設定だった。まぁ相手の方が赤の色彩を使っている辺り、自分の方が身分が低いことまで思い出してしまったが。
 中学時代、RPGツクールに嵌まった自分は、自分の物語のシナリオを作ってみたのだった。同時にそれとは別に小説を書いていたのは、恐らくライトノベルの影響。小学校の時よりは落ち着いたとはいえ、その物語も主人公万能の物語ではあった。しかも生まれ変わりもの。モデルは敵キャラ含め友人だったりした。親に見られて、復唱されて以来、そのどちらも引き出しの奥底だ。羞恥心には流石に勝てない。
 けれど、もしそのまま羞恥心を感じずにいたら......そのときはこの小説のヒロイン、佐藤良子のようになっていた可能性もある。仮想と言う現実をそのまま歩いていた少女。自己完結。個人的には素晴らしいと思うけれど、残念なことに社会はその類いの人間は排斥される。社会統治側の人間としては、秩序を乱すものは異端であるのは間違いないことである。だがこれはお互い様ではあると思うのだ。自己完結している人間もまた、他者を排斥している事には違いないのだから。
 だが、仮に妄想を同じくするものが居たとして、ある日突然連絡が途絶えるなどして裏切られたとしたら......?今まで自分が存在していた世界の、明確な崩壊――斯くして伝説の戦士はただの妄想に身を委ねた青年や女性であったと気付く。俗称'黒歴史'――それを抱えているのがこの物語の主人公、佐藤一郎である。
 舞台は学校。『学園ラブコメ』と帯に書かれた通り少なくとも学校で始まるのが筋だろう。だが問題は、普通志望の主人公佐藤一郎が所属しているクラスは、中二病罹患中かと思われる男生徒女生徒がクラスの半分(!) を占めていたことである。
 真夜中の学校で偶然出会った謎の少女、という辺りある種ボゥイミィツガァルの典型ではあるが、教室で彼女――佐藤良子に絡まれた時の佐藤一郎の絶望は想像するに容易いだろう。組み立てた普通への方程式が、不確定要素Xたる彼女の存在でいとも容易く瓦解してしまったのだから。
 その後、クラス担任のどりせん(本名は不明)によって彼女のお目付け役に選ばれてからの展開はというと......何とも可愛そうの一言に尽きる。'妄想戦士'(ドリームソルジャー、と読む)達に取り囲まれ襲われる姿は、個人的には同情せざるを得ない。
 しかし――この小説を読むと、どうしても別の感情が浮かぶのも、また確かではある。個人差はかなりあるだろうが、身に覚えがある人なら尚更――痛みを覚えるだろう。或いは懐かしさか。そのどちらも感じることがないならばその人は幸せだと思う。後に『下らない』と一蹴されるであろう妄想に身を浸す事がなかったのだから。同時に哀しいとも思わないでもないが、それは道連れにせんと海から腕を伸ばす幽霊の如き、断末魔が聞こえてきそうな妄執に過ぎないか。
 ......と、ここまでこの本の特徴である邪気眼的要素を含めた視線で語ってみたが、青春物として読むなら『強引な彼女に連れ回される不幸な青年物語』になるだろうし、所々に散らばる『おまじない』の謎も、宝探しのようにあちこちを探す様はプチミステリ。クラス内での身分と繋がりの動きは政治もの、と様々に読むことも出来るのだ。だがやはり主線は青春物。特にラスト前の描写は、第三者的目線を忘れてしまう程カッコいい。
 最後に。ラストに放たれた台詞に、直ぐ様に答えられる人がいるのならば、僕は尊敬したい。'普通'であることがどれだけ大変か、理解している一人として。

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