AURA

  • 『AURA』

  • 田中ロミオ
  • 小学館
  • 660円(税込)
  • 2008年7月
  • その日、教科書を忘れた俺は、夜半に忍び込んだ学校で魔女と出会った――。崩壊する日常。跋扈する妄想戦士たち。そして襲い来る敵。「世界に不思議なことはあってもいいんだ」。田中ロミオ、渾身の学園ラブコメ!

ライトノベルは衰退しました

推薦文No.1-5
早稲田大学ワセダミステリクラブ

 昨年の『人類は衰退しました』に続いて2年連続の、そして今年は犬村小六『とある飛空士への追憶』と並ぶ2作同時のノミネートと聞いて、本当に文芸サークルの大学生は田中ロミオとガガガ文庫が好きなのだなあとしみじみ思う。ガガガ文庫は創刊間も無い後発レーベルで、田中ロミオといえば作家としてよりもPCゲームのシナリオライターとしての方が馴染み深い人が多いのではあるまいか。その2つがタッグを組んで、どうして面白いラノベになるのだろうか。
 主人公は平凡な高校生、佐藤一郎。彼が夜の校舎で、魔女と名乗る美少女、佐藤良子と出会うところからストーリーが始まる。非日常な体験に心躍らせる一郎。ラノベとしては完璧な出だしだ。ところが、良子は魔女でもなんでもなく、自分が魔女だと思い込んでいるだけの、現実逃避甚だしいコスプレーヤーに過ぎなかった。クラスから浮くのも構わずに、ぶっとんだ言動を続ける良子。一郎は担任の一存で、良子とクラスメイトの仲を取り持つための世話役を命じられる。しかしそのクラスメイトも、妄想に捕われた夢見がちな面々が半分を占める奇妙なクラスだった。良子と彼らに振り回され、他の同級生からは白い目で見られてしまうことになった一郎に、平穏な高校生活は訪れるのか。やがてそんな騒がしい日常は、一郎の中学時代のトラウマを呼び起こすことになるのだった。
 あらすじでは伝わらないかもしれないが、良子をはじめとする、クラスメイト達のキャラクタが抜群に面白い。魔女、改造人間、剣士、吸血鬼など、様々な自称超能力者たちが一斉に現れるシーンなどは笑うしかない。彼らはそれぞれ、自身の能力に関する"設定"を持っているが、もちろんそれらは全て妄想だ。ぶっちゃけ、既存のラノベのパクリなのである。さて、あなたはいくつ元ネタがわかりますか? そしてキャラクタだけでなく、この作品全体も、今までのラノベ文化のパロディとしての色合いが強い。
 ラノベが、ゲームやマンガなどの先行の作品によって形成されたSFやファンタジーに共通するイメージに則って書かれていることは多くの人が指摘している。魔法はこんな感じ、ヒロインならこんな感じ、といった具合に。そのライトに用いられて来た、いわば「お約束」の体系がラノベには存在し、読者と作者の間で共有されて来た。『AURA』の面白さは、それが読者作者に留まらず、登場人物にも了解されていることだ。ラノベ世代、ラノベ読者とそれ以外との差はそのラノベ的教養を持っているかどうかに大きく左右される。作品内で大げさに展開されるクラスメイトと良子とのすれ違いは、このラノベ教育の格差をデフォルメしたものなのだ。
 と言ったところで、実際はラノベ高等教育なんて受けても何もならないことは明白だ。どんどんオタクに近づいていくだけだもの。そんなことは判っているけど、ラノベも好きだという小さな葛藤。だからこそ『AURA』は滑稽だし、多かれ少なかれそれを感じてしまった文芸サークル員の胸をもやもやさせるのである。この葛藤にラノベはどう解決をつけるのか、この「ラノベ読者のための」ラノベを手に取って確かめて欲しい。まったくそんなもの感じたことの無い人もいい勉強になる、かどうかはわからないけれど、是非。
 同様の自覚の上で書かれた作品として、谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』東亮太『マキゾエホリック』(いずれも角川スニーカー文庫)などがあると思うけれど、ここまではっきりやるのはさすがロミオだし、ガガガ頑張るなあと思ってしまうのだ。別にそう思わなくても、軽快な文章を読むだけでも面白いし、いっそmebaeのかわいいイラストだけでも手に取るには十分(結局ラノベか?)。おすすめの1冊です。

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