告白

  • 『告白』

  • 湊かなえ
  • 双葉社
  • 1,470円(税込)
  • 2008年8月
  • 女性教師が我が子を亡くしたある事件を軸に、さまざまな憎悪が絡み合う陰鬱なストーリーから浮かび上がるのは、現代社会への問いである。倫理観とは何か。人を裁くとはどういうことか。湊かなえ、衝撃のデビュー作。

孤独、されど世界は在り続けるミステリー

推薦文No.2-2
新潟大学文芸部

 「告白」は、双葉社の小説推理に掲載した「聖職者」「殉教者」「慈愛者」に書き下ろしの「求道者」「信奉者」「伝道者」を加えて発行されたものである。著者である湊かなえは第一章の「聖職者」で新人賞を受賞した。しかし、結末まで読み終えての感想ではあるが、これだけでは物足りない。この本は「伝道者」まで読了して「聖職者」を越える衝撃が来訪する構成になっていると言えるからだ。第一章で既に物語として完成されている一片を垣間見せながらも、それを超える波を用意する作者の手腕が見て窺える作品である。
 ミステリーは、謎という意味を含んだ単語である。謎と聞くと殺人事件や、怪事件、怪奇現象が挙げられる。しかし、壮大で広大なスケールで描かれていても、所詮人間の手で作り上げられた世界であり、解決可能である。しかも、「生と死」に関する謎―特に殺人事件は自分の周りで頻繁に起きることでもなく、そこばかりに集中しても不謹慎だ。答えが出ない謎、とは実は身近にある―どうして自分は今生きているのか、何のために生きているのだろうかというものだ。そういう疑問こそが、単純で些細だからこそ難解な問題として生涯残り続ける。作品中の登場人物の一人もそのような思索に耽る一面が見られる。
 読んでいる途中では何故この作品が、得票数を得たのだろうかと怪訝に思った。しかし、最終章の途中で解決への糸口が見つかった。これは、私の誤解に過ぎないかもしれないが、解釈に付き合って欲しい。
 ―あなたの世界に、あなたと愛するママしか存在しないのなら、ママを殺しなさい。
 一体、この「世界」という単語には如何なる意味を与えているのか。単語自体の意味は多義的である。広義に捉えるならば「範囲、領域」であり、それを含んだ「空間」に該当する。しかし、この小説内で狭義に捉えてみても、「広い世界」を意味してはいない。あくまで自分の周りの日常生活であり、そこには自分の目が届く範囲の人物しか登場しない。世界とは、社会であり景色である。社会とは、大衆でありながらも孤独である。景色は虚構でありながらも現実である。多義的な言葉の中には、矛盾し対立した意味を併せ持つものがある。社会に存在する矛盾と向き合うことは、自身の理性を育む行為であり、私達が現実を生きるために必要なことだ。本作品はそれが前面に押し出されてきたと思っている。
 『告白』という小説は、個々の世界に踏み込まずに自らの理想のみを願い求め続けた人間達による、一つの少年犯罪を起点とした物語だ。第一章の語り手である森口悠子も、また、犯人も全て最後まで自分の理想を貫き通して終着を迎える。結果は違えど、自分の願望を叶えようとする姿勢だけはどの登場人物も似通っている。彼らは常に内省を重ね、時にそれを行動に移す。そうして自分の理想に近い姿に行き着こうとする。しかし、結果として一人を除いて全ての人間が願いをかなえていない。
 ―人間の倫理観は、単なる学習効果でしかないのかもしれません。
 人は不足しているものと向き合うべきだ、そう作者である湊かなえは述べている。これは昨今の社会全体に当てはまることは否定できない。少年犯罪を含めた多くの猟奇的犯罪が多発する中、人は自分が見えている景色のみ信じ他人に対する敬意や憧れを失っている。しかし、個人を揶揄し批判しているのではない。彼らは常に社会と共にある。子供達は大人を見て育っている。子供が閉鎖空間を作り始めているのは、体裁ばかりを気にする醜い社会の大人を観察しているからに過ぎない。大学生である今のうちに、大人として社会に出る直前の最終段階の今だからこそ、矛盾と対峙し倫理観を養い、自分の人間性を、倫理観を確認し歪みを無くすことのできる最後の機会を逃さないでくれ、という著者からの告白がこの小説で行われているのである。

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