ボトルネック

  • 『ボトルネック』

  • 米澤穂信
  • 新潮社
  • 500円(税込)
  • 2009年10月
  • 亡くなった恋人を偲んで訪れた東尋坊で、ぼくは誘われるように断崖から墜落した。そこでぼくを待っていたのは、失ったもの全てが存在する「自分の生まれなかった世界」――。生々しい痛みに満ちた、青春ミステリ。

パラレルワールド!

推薦文No.4-1
埼玉県立大学文芸サークルぽっぽくらぶ

 あなたは、「自分がいない世界」を想像したことがあるだろうか。
 もし、自分ではなく別の誰かがいる世界だったら...
 この物語の主人公は嵯峨野リョウ。父と母の不仲や、自業自得とはいえ交通事故で死んでしまった兄。さらには、二年前には恋しい人も死んでしまったという、ちょっと複雑な環境に身を置いている。そのためか、どうしようもないことが起きても、ぼくは何でも受け止めることができる、と考える節がある高校一年生の男の子だ。普通の感覚から言えば、かわいそうな人かもしれない。
 兄が死んだと聞いたとき、ぼくは恋した人を弔っていた。物語はこんな書き出しから始まる。
 主人公嵯峨野リョウは、自分が恋した人、諏訪ノゾミを弔いに彼女が転落死したという東尋坊を訪れていた。その後、兄を弔いに行く予定だった。しかし、彼が白い花を崖下に投げ込もうとした瞬間急な眩暈に襲われて、岩場で大きくバランスを崩し、崖から転落してしまう。
 意識が戻ると、彼は、金沢市川沿いの堤防の上にあるサイクリングコースのベンチの一つに横たわっていた。東尋坊に行ったことは間違いない。そのことは、電車を使ったときに買った往復の切符の余りと手向けの花を摘んだときについた親指と人差し指の間にある濃緑の汚れが証明している。自分は崖から転落したはずだが、なぜここにいるのだろう。夢にしてはおかしい、そう思いつつも自宅に戻ると、見知らぬ女性に出迎えられる。彼女の名前は嵯峨野サキ、高校二年生でブラウンの瞳にショートカット。明るくて活発そうな女の子だ。実は、嵯峨野リョウの世界では彼女は母のお腹で死んでしまったので生まれてこなかったはずの人物である。なぜなら、彼らの両親はこどもを二人つくる予定だったからだ。主人公嵯峨野リョウは「自分の産まれなかった世界」に迷い込んでしまったのである。
 嵯峨野サキが生まれた世界と彼女が生まれなかった代わりに生まれた嵯峨野リョウの世界。二人は話し合ううちに、二つの可能世界が交わっている事実に気づく。
 そして、サキは提案する。「間違い探しの要領でさ、あたしに話聞かせてよ。」
 あの時ああしていれば、と考えることは、誰しも経験あるだろう。もし、その経験を自分ではない第三者が同じ立場に立ったらどうなるだろうか。いままで自分が必然的にこうなると思い込んでいたものは実は分岐点だったのかもしれない。そうしたら、あれは自分の人生の岐路、分かれ道であると気づかざるを得ない。
 あなたがこの本を読んだら、自分の生き方を深く考えさせられるだろう。人間一人で何がどれほど変わるのかというのがこの本の醍醐味である。よくよく、自分が生まれたことで、どのくらい世界に影響を与えているのか考えたくなってしまう作品である。もし、「自分がいる世界」と「自分がいない世界」を否応なしに比較しなければならない状態に陥ったら...。
 同じ両親から生まれ、同じような環境で育った二人。サキの世界と主人公リョウの世界での間違い探し。それは結婚式の写真がプリントされた皿から始まり......ここから先は是非自分の目で読んで確かめて欲しい。
 サラッとした文体ですぐ読めてしまうのに、小説の世界にグングン引き込まれていく。恋愛的な要素も含んでいるので男女問わず楽しめるはずだ。特に主人公と年齢が近しい高校生や大学生に読んで欲しい。
 衝撃のラストが待ち受けている。私は、この本を読み終わった後しばらく何も手につかなかった。

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