夜は短し歩けよ乙女

  • 『夜は短し歩けよ乙女』

  • 森見登美彦
  • 角川書店
  • 580円(税込)
  • 2008年12月
  • 不器用な「先輩」は、風変わりだけど可愛い「黒髪の乙女」にベタ惚れしてしまう。珍事件も何のその、鈍感な彼女を振り向かせるべく奔走する先輩の大学生活やいかに……。味のある文体で綴られた恋愛ファンタジー!

鼎談 大学生3人組が本気で『夜は短し歩けよ乙女』を語る

推薦文No.5-6
新潟大学読書クラブ

 ※この3人の鼎談は、実際に行なわれたものを限りなくそのまま文字に起こしたものです。

 ~『夜は短し歩けよ乙女』のあらすじ~
 「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する"偶然の出逢い"にも「奇遇ですよねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。(裏表紙より)

 A:『夜は短し歩けよ乙女』を読みたくなくて読まなかったBさんとしては、あらすじを読んだだけで、どう思った?
 B:はい、こう、ジュブナイル小説、青少年向け文学だなと思いました。思春期の高校生が読むものであって、大学生が読むべきものではないのでは? 大学読書人大賞に出すべき作品は本当にそれなのか、大学生として薦めるべきものなのかそれは、という感じですね。
 A:じゃあ、どういう小説を大学生は読むべきものなの?
 B:破滅する小説です。
 A:え?
 C:そういう意味では、この小説は片思いが実るだけだから破滅しないことが約束されているね。
 B:そうですね。
 ドストエフスキーも基本的にバッドエンドじゃないですか。
 C:ドストエフスキーってバッドエンドなの?
 B:いや、思想的にはハッピーエンドなんですけど、物質的にバッドエンドなんです。
 C:思想的にハッピーエンドって最強だよね。それこそまさにハッピーエンドだよ。
 B:まさに不幸の中に幸せを見つけると言うのが好きなんです。安穏とした大学生こそ破滅を知るべきなんですよ。人間のいきつく話は結局破滅という肉体的な死なんです。だから精神的に死に触れることによってそれを受け入れる状態、すなわち大人にならなければならないんですよ、精神的にね。
 C:なるほどね。僕としては不条理ギャグ小説としてまあまあ面白いと思いました。文化祭を舞台にした三章は良かったよ。「偏屈王」という演劇部の即興劇が挿入されていて、"実在のサークル名を劇中に取り込んだ、虚実入り乱れる内容"ということなのですが、それがその、不条理な話なんですよ。モンテクリスト伯みたいな主人公が、敵である各サークルの人たちに意味不明な言いがかりつけて拷問して廻る、とかね。
 A:そうかな、純粋に恋愛小説だと思うけど。俺、感情移入して読んで泣いちゃったよ。西洋料理店でヒロインがカタツムリの貝殻を延々と見ている場面があるんだけどさ。その彼女の訳分からない行動が良い。その後のヒロインはその行動について言うんだよね。"私はじいっとその渦巻きを眺めながら、「お酒飲みたい」と熱烈に思ったのです。残念ながら、その抑えがたい欲求と蝸牛の渦の因果関係についてはまだ明らかになっていません"あぁ~よくわかんないけど、彼女いいな、って思ったよ。
 B:それは単なるキャラクター小説だよ。いいと思うけど、小説の本質ってキャラクターなんですか?
 A:小説の本質はキャラクターじゃないよね、そのキャラクターによる恋愛が本質でしょ。偏屈王という劇にしても、ヒロインがよく分からないうちに劇の主人公に抜擢されて、そこから主人公はヒロインと結ばれる偏屈王になろうと、すごい一生懸命に画策して必死に頑張る。
 そこら辺が、まさに恋愛。101回目のプロポーズに通じるものがあるよ。
 C:なるほど。現実世界においても、われわれ人間はキャラクターとしてしか他者を理解できない、ということの示唆という意味があるのかもしれませんね。
 B:そうだ。他者のリアルな人間性を獲得するためにも、僕たちは、悩んでないで恋愛をするべきなんだね。

 ※この3人の鼎談は、実際に行なわれたものを限りなくそのまま文字に起こしたものです。小さな頭ですが、1人ではなく新潟大学読書クラブ全メンバーである3人で本気で『夜は短し歩けよ乙女』を考えて推薦しました。最後までお読み頂きありがとうございました。

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