夜は短し歩けよ乙女

  • 『夜は短し歩けよ乙女』

  • 森見登美彦
  • 角川書店
  • 580円(税込)
  • 2008年12月
  • 不器用な「先輩」は、風変わりだけど可愛い「黒髪の乙女」にベタ惚れしてしまう。珍事件も何のその、鈍感な彼女を振り向かせるべく奔走する先輩の大学生活やいかに……。味のある文体で綴られた恋愛ファンタジー!

「夜は短し歩けよ乙女」の推薦文

推薦文No.5-4
新潟大学文芸部

 基本は、恋愛小説です。誰が何と言おうと、恋愛小説です。主人公である「先輩」の頑張る姿と、もう一人の主人公である「黒髪の乙女」の好奇心の赴くままに動き回る少女のような姿を見て、読者である私たちがニヤニヤするのが目的のお話です。
 全部で四章の構成で、それぞれに春夏秋冬の季節が割り当てられています。一章は、「先輩」が「乙女」と仲良くなるために空回りするお話です。二章は、「先輩」が「乙女」と仲良くなるために空回りするお話です。三章は、「先輩」が「乙女」と仲良くなるために空回りするお話です。四章は、「先輩」が風邪をひくお話です。繰り返しますが、恋愛小説です。
 この物語の魅力の一つに、森見登美彦さんの作り出す不思議で個性的な文体があると思います。この物語には、冒頭から、それが十分すぎるほど溢れかえっています。未見の方や、どうにもその文体と相性の悪い方には、敬遠されるポイントになってしまうかもしれません。しかし、好きな方には、それがこの物語をたまらなく魅力的に見せてくれるはずです。
 それを、最近ではあまり使われる言葉ではありませんが、仮に「森見節」とでもしておきましょう。この物語は、例えるなら、純粋な恋愛小説に、「森見節」をまんべんなくまぶして、たっぷりの「森見節」にからめた後、まわりに「森見節」をまとわせて、十分に熱した「森見節」に入れて、森見色になるまで登美彦したようなもの、だと思って下さい。かえって分かりづらくなったかもしれません。
 話を元に戻しましょう。この物語には、好きな人にはたまらなく魅力的な単語が溢れているのです。その不思議で独特な言葉使いは、かくいう私の心の琴線にもべたべたと手垢を残してゆきました。それは例えば、
 「おともだちパンチ」
 「二足歩行ロボットのステップ」
 「偽電気ブラン」
 「『天狗をやっております』」
 「詭弁論部」
 「『そこにお酒のあるかぎり』」
 「今宵逢ったのも何かの御縁」
 「私を誰か誉めてやって然るべきだ」
 などです。第一章から選び出したものでこれだけです。本当は、全編を通して紹介したい気持ちでいっぱいなのですが、文字数などの関係で、このへんで我慢しておきます。残りは、この文章を読んでいるあなたが見つけて下さい。もちろん、第二・三・四章にも同じように素敵な言葉が溢れていることを、私が保証します。
 また、この物語を素敵たらしめている最大の要因は、私が思うに、「黒髪の乙女」の可愛らしさにあります。どこがどう可愛らしいのかは、うまく説明できません。私が「短く切りそろえた黒髪」フェチなのは、多分関係ないと思います。それでも何故だか、「乙女」は読者の心を捉えて離さないのです。「先輩」も同じ心境なのだと思います。
 頑張る「先輩」の姿も、素敵さを上昇させる一役を担っています。「先輩」は、「乙女」の背中を追って空回りを繰り返します。しかし、舞台の主役たる「乙女」は他の"オモチロイ"ことに夢中で、路傍の石ころたる「先輩」の存在にほとんど気付いてあげられません。読者たる私たちは、いつしか先輩に自分の姿を重ねて、誉めてあげて然るべきだと思います。
 最終的に何が言いたいのかというと、この文章とあなた(ここまで読んでくれてありがとうございます)が、こうして出逢ったのも、何かの御縁。こんな文章に出逢ってる暇があったら、もっと良い出逢いを求めて、本屋さんに行きましょう。そして、本を買いましょう。例えば、「夜は短し歩けよ乙女」とか。

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