天地明察

  • 『天地明察』

  • 冲方丁
  • 角川書店
  • 1,890円(税込)
  • 2009年11月
  • 江戸時代、徳川四代将軍家綱の時、日本独自の太陰暦を作るプロジェクトが立ち上がった。その実行者として抜擢されたのが、渋川春海という碁打ち。彼の二十年にわたる奮闘・挫折・喜びを描いた新しい時代小説。

本当の自分を探して

推薦文No.6-2
拓殖大学文学研究会

 現在自分は大学生だ。大人と子供の狭間でゆらゆらと漂っている。あと数年で自分のモラトリアムは終わる。もちろん、それは社会へと放り込まれる事を意味する。それなのに、自分が将来何をしたいのか。何を目標にして生きていくのか。ほとんど掴めない。
 物語初期の春海は、その点では自分と同じだろう。春海が状況に応じて名を使い分け、作り出しさえもしたのは、自己の存在を名前に求めたからではないかと思う。
 だが、春海はその後の人生を変える事となる出来事に遭遇する。関孝和の一瞥即解である。これに刺激を受けた春海は関孝和を追い求める事となる。問題を出題するも矛盾を見つけられ、挫折を味わう。以降、春海の人生は挑戦と挫折を繰り返す。春海は関孝和に追いつこうと算術の研鑽に励む。また、老中・酒井による北極出地の命令も春海の運命を大きく変えた。これが契機となり、四回に渡る上奏の末に改暦を成功させたのだが、そこまで辿り着くには多くの人々の力を必要とした。これは現代社会にも通用する事例である。草稿が出版物になるまでの道筋を考えると分かりやすいだろう。
 改暦に至るまでには挫折もあった。しかしそれでも立ち上がって――それこそ失敗をバネに変えるかのように――跳躍する。一人で出来ない時は友の助力を得て、飛び越える。友が困っている時は助け、切磋琢磨を繰り返し、人間的に成長する。これは理想の友人像ではないかと思う。また、挫折しても諦めない春海の姿は、人間の強さというものを見せつけてくれる。
 本当の自分が何をしたいのか。何を目標としたいのか。それは、他人との関わり合いの中で見いだす事が出来るものなのか。失敗を幾度となく繰り返して学ぶものなのか。それとも別の何かなのか。自分には分からない。ただ、一つだけ感じている事がある。失敗を繰り返して挫折したとしても、立ち上がり続ける事と助け合う友人がいる事。この二点さえ持っていれば、なんとかなるのではないかと思う。

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