告白

  • 『告白』

  • 湊かなえ
  • 双葉文庫
  • 650円(税込)
  • 2010年4月
  • 「愛美は事故で死んだのではなく、このクラスの生徒に殺されたからです」。娘を失った女教師によって行われた恐ろしい復讐。母親を求め殺人を犯した二人の生徒に下される裁きとは? 無慈悲なまでの母の愛を描ききった怪作。

最優秀推薦文

地を這う文学

推薦文No.3-3
法政大学文学研究会

 いきなり過激な話かもしれないが、ぜひ想像してみてほしい。もし私たちが死ぬ時、長いようで短い人生の道のりを歩んできて、そのうえで抱えてきた様々な問題は、事切れる前に綺麗に決着がついて、ハッピーエンドで終われるのだろうか。
 悲観的と言われるかもしれないが、私は全くもってそうは思えない。これが正直なところである。様々な思い残しがあって、未練たっぷりのまま私は生を終えるのだろうと思う。なにごともドラマのように綺麗に結末のつくものはないはずだ。世界規模で言えば、環境破壊・大恐慌・民族紛争......、個人レベルで言えば友人関係から進学や就職、ほかにも結婚や年おいた親の介護まで、とかく社会というものは問題だらけのようにしか見えない。さらにタチが悪いことに、我々が抱えている問題は、もちろん個々人で様々な種類のものがあるだろうが、大抵のものは、そう簡単に解決できるものではない。残念であるが、しかしそれが本当のところだろう。
 私は『告白』を読んでいて非常に力強い手応えを感じる。例えば「いじめ」の問題。なんだかんだと理由を付けて、ストーリーの中では簡単にハッピーエンドにすることだってできただろう。しかし、今の社会で「いじめ問題」は解決されているだろうか。今、この瞬間にだって苦しんでいる人は多くだろう。その現実を横目に、安っぽい話を読まされたって私は信じられない。本書は、終わりに救いがないと言われる。けれども、それこそがこの小説の読みどころであると思うのだ。この小説に形而上的な「真実」や「真理」といったものはないだろう。しかし、この小説の中には「現実」がある。それが手応えの正体であり、この本をぜひ読んでほしいと思う理由なのだ。
 非常にジャーナリスティックな小説であると思う。現代的な話題を取り入れ、また細かいモチーフにも当時話題になっていたものが多く入っている。いわゆる純文学の領域で好んでこういった題材が扱われるのはあまりないだろう。日々移ろいゆく景色の中で感情の細やかな動きを繊細な筆致で描き出す、これこそ「文学」といった感じかもしれない。あまりにジャーナリスティックであると、いわゆる「文学」といった感じにならないのだろう。しかし、なんの出口も見当たらない今の「現実」のなかで翻弄され、戸惑いながら生きている。そのような今を生きている「人間」を描いて見せたことが、この小説の力ではないのだろうか。そして私は、この小説こそが現代の文学ではないのかと思うのだ。
 細やかな感情の機微、軽やかなる想像の世界。どちらも文学として扱うにふさわしいものだろう。しかし『告白』のような「現実」のなかで迷いながらも生きている「人間」を「露骨なまで」と言えるほどに描いて見せたこの小説こそ、今私は読んでほしいと思っている。愛や平和と叫ぶのは簡単である。しかし、形而下に生きる肉体を持つ私たちは、より地面に近いところで物を見る視点が必要になるのではないだろうか。そして、地を這うような低さで「現実」を描いて見せてくれるもの。これこそが私たちが高く飛ぶために必要な、堅い足場であると思うのだ。

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