これからの「正義」の話をしよう

  • 『これからの「正義」の話をしよう』

  • マイケル・サンデル
  • 早川書房
  • 2,415円(税込)
  • 2010年5月
  • 社会の中で、明確な答えのついた問いかけなど存在しない。しかし、私たちにはたった一つの武器がある。それは「思考」だ。ハーバード大学史上、空前の超人気講義を元にした現代社会における哲学書。

最優秀推薦文

いざ起て読書人よ

推薦文No.4-1
関西学院大学文芸部

 哲学は全ての学問の基礎である。哲学なくして万学は成り立たず、万学に派生せぬ哲学は屋根と床を作らぬ家に等しい。しかしながら現代日本では哲学は万学と並べて扱われている。これが従来の「哲学って面白いけど何の役に立つの?」という不当な評価の原因である。マイケル・サンデル氏の功績は、まさしくこの哲学と「現実」との乖離を分かりやすく埋めてみせたところにある――などという書評は、諸氏にはいわゆる耳タコであろう。
 この本は氏の哲学の紹介書であり(断じて普遍的な話ではない)、彼に直接師事できない多くの人間がその思想に触れる手助けをしてくれる、非常に有難い作品である。彼の講義は『ハーバード白熱教室』の名を冠した番組で、或いは動画サイトを通じて配信されている。通信手段が進化した現在、このようにより実際の講義に近い形での情報伝達の手段はいくらでもある。にもかかわらず改めて文章に起こした書籍という形での展開は、またそれが人気を博している事実は将来のメディアを考える上で興味深い。電子書籍の隆盛や文学作品とはどうあるべきかという話題が世間を賑わせた昨年の情勢に一石を投じたように思う。その点でも、この「書籍」は注目に値する。
 もっとも、諸氏にこの本を推薦するのは、正確には「読んで」欲しいからではない。先に述べた通り、この本はマイケル・サンデル氏の哲学の紹介書である。長く教鞭を執ってきた氏の主張は、意地悪い言い方をすればそれはそれは巧みに人心に入り込むであろう。しかしながら、誰かの主張を鵜呑みにするのでは、結局のところ話を「した」ことにはならない。多少驕った言い様かもしれないが、我々は「読書人」としてここに集っている。ならばただ本を読み共感を拾うのは終いにしよう。舐めるようにとっくりと読み、「Wait a mimutes!」と叫ぶ、そんな読書の足掛かりとしてこの本を手に取ってみてはどうだろう。
 長くは述べるまい。批判も賛同も、作品を読んだ者にのみ与えられる特権である。
 さらば若者、この本を読んだ後は――いやいっそ全て読まぬ内でも、書を閉じ町へ出よう。
 これからの正義の話を「しよう」。

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