砂漠

  • 『砂漠』

  • 伊坂幸太郎
  • 新潮文庫
  • 780円(税込)
  • 2010年7月
  • 麻雀やったり授業行ったり。「大学の一年間なんてあっという間だ」。サークルもクラスも同じじゃないけど集まった普通の大学生五人組の日々を、伊坂幸太郎が描く、さわやか群像劇。

僕たちは世界を変えることができない

推薦文No.5-2
明治学院大学文芸部

 「僕たちは世界を変えることができない」大学生にもなればそんなことは十分すぎるくらいに分かる。第一に世界という単語は漠然としすぎている。アプローチの仕方も見当がつかない。だけれどもそのまま分かりきるのだけは嫌なんだよ。だから、あのパンクロッカーはギターを手に、顔をくしゃくしゃに歪めながら戦争反対を叫んだのかもしれない。だからあの大学生たちはカンボジアに小学校を建てようだなんて思いつき、本当に建設してしまったのかもしれない。こんなことを言えばきっと分かりきったような顔をした社会人はこう言うだろう。
 「それをすることが根本的な解決になるのかい?」と。
 当然なるはずもないと分かった上でやっているんだ。たとい、青さ故と評されようとも。それは、例えばどこかで偽善や自己陶酔などの側面を併せ持っているのではないかと自身で気づきながらも、自分の感情に素直に行動を起こすことはすばらしく、美しいということを教えてくれる。そんな信念をもったまっすぐな若者が本作にもメインキャラクター兼キーマンとして登場する。
 本作、『砂漠』は東北は地方都市、仙台の国立大学に通う大学生、五人グループの大学入学から卒業までを題材とした、カテゴライズするなら青春小説だ。主人公の北村のシニカルだが21世紀の青春小説によく合う、対峙するほとんどのものに斜に構えたような語り口でこれから来る社会を表題である砂漠に譬えることで、大学生活を一時のオアシスとして認識し、またそのオアシスで繰りひろげられる物語を回想的に紡いでいく。上記したまっすぐな若者(主人公北村ではない)西嶋を中心にユーモアのあるかわせみに似た髪形を持つ鳥井、孤高であるが美しい東堂、ひっこみ思案だがプチ超能力を有する南、そして主人公北村と&αで時には喜んだり、時には悲しんだりする大学生活における青春成長記録でもある。冒頭から終盤までその影を見せ続ける敵も地方の大学生らしいこじんまりとはしているが彼らのグループにとっては重大であり彼らの成長にとっての必要な悪ですらある。よく大学生の一年はあっという間だというが、サブタイトルを四季で切り取り、春、夏、秋、冬、春としたのも季節の流れは当たり前のことであるものの、読後には作者お得意のマジックに陥ること必至であろう。
 キーマン西嶋は本文中言う、「俺たちがその気になれば、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」と。容姿に恵まれず、且つあるミュージシャンにも似た暑苦しさを見せる彼が何故、カッコイイのか、何故、人を魅了し続けるのか。それはひとえに彼の発する言葉が本音であり、彼の執り行う行動が自分の信念に正直なことであるからだろう。
 本書を読めばシンプルなエイトビートにスリーコードからなるメロディーをかけたような、単純ではあるが非日常的でもある彼らの青春を垣間見れることうけあいである。
 さぁみんなで叫ぼう。Hey,oh,let's go.

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