馬たちよ、それでも光は無垢で

  • 『馬たちよ、それでも光は無垢で』

  • 古川日出男
  • 新潮社
  • 1,260円(税込)
  • 2011年7月
  • 福島県の震災から1ヶ月後、作者は東北へと向かう。マスクの人々、見えない放射能、傷ついた馬たち。そして作者に、かつて執筆した『聖家族』の主人公がかく語る――。小説を書く人々すべてに読んで欲しい一冊です。

善き想像力

推薦文No.1-2
関西大学現代文学研究部

 古川日出男の文章に初めて触れた時、「あ、これは脳みそ!」と直感したことを覚えている。語りのような特徴的な文章が、読者の脳みその認識に合わすようにフレーズを繰り返し、前述したことを言い変えて正したりする。古川日出男が、脳みそに直接語りかけてくる。声を聞くうちに、小さな脳みそが頭の周りを数珠みたいにぐるっと囲んでぽこぽこ生まれる感じがする。もう私が持ってる一つの脳みそじゃないくらい、様々なことを想起させられる。逆に、声に思考を委ねるだけの時もある。声が見せてくれる。

 本書の中では作者である古川日出男が、自分が産まれそして震災の打撃を受けた、福島に赴いている。彼はプロのボランティアでなければプロの救助隊員でもない。彼のすることはプロの小説家という立場で福島原発の避難区域を自身の目で見て、描写することだ。描写は目に見えるものと、見えないものを両方書いている。見たままを書いているところもあるが、見たものを彼の言葉を使って、言い変えて、描写することで、もはや見えないものまで読者に見せている。
 他に一つ、見えないものとして、古川日出男は動物たちのことを書く。古川日出男の小説では今まで、犬や猫などの動物たちに主軸を置いて書かれたものが多くある。動物たちは見えるけれども、普段は見えない。というより私たちは見ていないのだ。それを本書では馬たちのことを語って、見せてくれている。地震の被害によって傷ついた馬たち。
 そしてもう一つ見えないもの、放射線のことを。
 
 しかし今回の地震のような現実で起こった出来事を救うのは、やはり小説を書くことではなく、事実を書くことなのだろうか。現実の前では創作は何の力も意味も持たないのだろうか。それでも小説を読んでいる私たちは?
本書の中では事実が書かれている。しかしそれは途中までだ。現実を超えて、創作であるはずの小説が途中で入りこんでくる。本来なら嘘であるはずの小説が持っているその可能性を信じて、古川日出男は事実の中に小説を織り込んでくる。善い想像力。小説家である古川日出男が見ているそれを、私たちに見えるように書く。私たちに、見せてくれるのだ。

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