青年のための読書クラブ

  • 『青年のための読書クラブ』

  • 桜庭一樹
  • 新潮文庫
  • 460円(税込)
  • 2011年7月
  • ミッション系のお嬢様学校「聖マリアナ学園」を舞台に、数々の事件の背後で秘密裏に活躍した「読書クラブ」。学園の創設から消滅までの百年にわたり活躍した異端の少女たちの理論武装の歴史を描いた物語……!

世界と対峙する、異形の少女たち

推薦文No.2-5
明治大学ミステリ研究会

 戦う少女、と聞いて何を想像するだろうか。
 それはきっと、機関銃を撃つ女子高生だったり、月の名を冠する美少女戦士だったり。
 本書に登場する読書クラブの少女たち。彼女達に力はない。することといえば、ただ集まって本を読むだけだ。しかし、そこには『戦う少女』の姿があった。

 伝統あるお嬢様学校「聖マリアナ学園」。日常で使われる挨拶は「ごきげんよう」がふさわしい、そんな世界。ここでは<西の官邸・生徒会>が学内を取り仕切り、<東の宮殿・演劇部>がスターとなり、<北のインテリやくざ・新聞部>がそれらの事件を報じる。そして、それら華やかな世界とは縁遠い<南のへんなやつら・読書クラブ>の面々がこの本の主人公だ。主人公であっても出来事の主役ではない。彼女達は歴史の表舞台に立つことはなく、少々の関わりを持ったとしてもそれが学園の正史に刻まれることはなかった。
 この本は、学園の南に集う<異形の少女>たちによって記された物語である。彼女達は中枢である生徒会から存在すら忘れられひっそりと過ごしていた。時が流れ、時代が変わっても、少女たちは変わらない。彼女達は集い、本を読み、語らうのだ。
 世界にぴったりとはまることの出来なかった少女たち。学園の序列に含まれない。仲間に入れてもらえない。はぐれ者たちの物語。<異形の少女>と称される、世界に馴染めない、しかし無力な少女が、読書クラブには集まってくる。

 本を読まずに友人と明るく笑いあっている者たちよりも、難しい顔をして読書クラブにいるような人物の方が素晴らしい、というわけではない。本書の主題は決して負け惜しみのルサンチマンなどではない。読書クラブの彼女たちはメインストリームに対する羨望と嫉妬を持っている。そして、嫉妬を抱えて認めたうえで、世界に対して戦争をしかける。
 第一章で語られる「烏丸紅子恋愛事件」。生徒会に入りゆくゆくは会長として学園に君臨したいという野望を持っていた学園一の才媛、妹尾アザミはしかし父親ゆずりの容姿の醜さ故に受け入れられず、流れに流れて場末の読書クラブに辿り着いたという遍歴を持つ。アザミは、中性的で美しい容姿を持つものの貧しい生まれから<すえたドブ板の臭い>がすると忌み嫌われた烏丸紅子と出会う。醜いアザミは美しい紅子を年に一度の投票によって選ばれる、学園のアイドル<王子>に仕立て上げることで学園の中枢へ復讐を企てる。
 戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』になぞらえて物語は進行する。アザミの策によって蔑まれる立場から一転、人気を得た烏丸紅子には恵まれた容姿を持つが頭の中身はからっぽの美青年士官クリスチャンが、極めて醜い顔であるが素晴らしい詩情を持つシラノの姿はアザミに重ねられる。
<恋は、人の容姿にするものなのか? それとも、詩情にするものなのか?>
 学園の正史に刻まれることのなかったこの「烏丸紅子恋愛事件」の顛末が、読書クラブ員の手によって記されている。

 このように本書には第五章まで、学園の百年の歴史の中で記されることのなかった珍事件や、葬られてしまった出来事について書かれている。そしてそこには、戦う少女の姿があった。
『青年のための読書クラブ』には、戦う少女の姿を見ることができる。この本は、かつて少女であった昔を思い起こさせ、そして、現在も戦っている少女達を励ます。再び戦える勇気をくれる。
 彼女たち(そして僕ら)は、本をぱたんと閉じた後、「えいっ」と世界に対峙するのだ。

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