青年のための読書クラブ

  • 『青年のための読書クラブ』

  • 桜庭一樹
  • 新潮文庫
  • 460円(税込)
  • 2011年7月
  • ミッション系のお嬢様学校「聖マリアナ学園」を舞台に、数々の事件の背後で秘密裏に活躍した「読書クラブ」。学園の創設から消滅までの百年にわたり活躍した異端の少女たちの理論武装の歴史を描いた物語……!

最優秀推薦文

全ての「私たち」に贈る

推薦文No.2-6
京都府立大学文藝部

『青年のための読書クラブ』――この作品が描いているのは、まさに「私たち」である。過去に「そうであった」私たちであり、「そうありたかった」私たち、もしくはこの先「こうあるかもしれない」私たちである。
 たとえば、中学生の頃(人によっては高校生の頃かもしれない)バンドを組んで学校のスターになる妄想をしたことはないだろうか。もしくは、女子の中に「女子にモテる女子」が存在し、バレンタインにたくさんチョコレートをもらっていた、もしくは自分がそのような存在になりたいと思ったことはないだろうか。学校を救う「救世主」(これを「メシア」と読んでいればさらに完璧である)になる妄想は? これらは、有り体に言えば「中二病」というやつだ。「黒歴史」と呼ぶ方もおられよう。
 『青年のための読書クラブ』は、聖マリアナ学園、という、幼稚舎から短大までをそなえた女子学校の稗史(正史には載らぬ事件を取り上げた歴史)を、読書クラブ、という部活(異形の娘たちの集まりであり、活動自体は文芸部とあまり変わらない。つまり、「私たち」だ)の視点から描いた物語である。その物語に出てくる登場人物は、あるものは計略により学園の王子に上り詰め、あるものはバンドのボーカルとして学園のスターになる。あるものは影からそっと学園の少女達を救い「ブーゲンビリアの君」と呼ばれ、あるものは権力からの亡命者をかくまう。ここにいるのは「私たち」なのである。過去にそれに憧れた「私たち」であり、実際にそれを叶えた「私たち」である。最終章に描かれるのはもしかしたら、年を経た「私たち」の理想の姿であるのかもしれない。
 私は是非ともこの本を、少女時代そうであった「私たち」には過去を思い出す本、未来に想いを馳せる本として、そしてそうでなかった人たちには「異形の娘」であった「私たち」を観察し、真実を描いた本として大学生にすすめたい。ある人は過去の自分を思い出し、ベッドの上でばたばた暴れたくなるだろう。ある人は「こんなヤツいたいた」と頷くことになるだろう。またある人は「こんなこともあるもんだ」と純粋に好奇心を満たすことが出来るだろう。そして、どのパターンに当てはまる人も、皆、甘酸っぱい――というよりは甘じょっぱい青春を味わい、その展開にワクワクすることが出来るだろう。これは『青年のための読書クラブ』に限らず、『赤×ピンク』でも『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』でも、また『赤朽葉家の伝説』における赤朽葉毛鞠の少女時代でもそうなのだが、桜庭一樹氏は、ハイティーンの女子が持つ、ガラスのナイフのような、鋭く脆い感性を描くことが大変上手い作家である。
 また、この作品には、かつて富士見ミステリー文庫で名を馳せた桜庭一樹氏らしく、ミステリー的な要素も盛り込まれている。その面でも非常に楽しめる作品だ。
 某「泣ける」作品をバスの中で読んで涙し、バスの運ちゃんに若干心配された私が言うのもどうかと思うが、現代の大学生に必要なのは、「全く遠い世界の泣ける物語」でも、「夢想の中にしかないまさに『漫画的』物語」でもなく、自分を振り返り、また、自分を見るための「ありきたりな真実の物語」であると私は考える。『青年のための読書クラブ』に描かれているのはまさに、そのような「ありきたりな」女子の妄想を克明に描いた「真実の物語」なのである。

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