青年のための読書クラブ

  • 『青年のための読書クラブ』

  • 桜庭一樹
  • 新潮文庫
  • 460円(税込)
  • 2011年7月
  • ミッション系のお嬢様学校「聖マリアナ学園」を舞台に、数々の事件の背後で秘密裏に活躍した「読書クラブ」。学園の創設から消滅までの百年にわたり活躍した異端の少女たちの理論武装の歴史を描いた物語……!

人から人へ、書はまわる

推薦文No.2-7
二松学舎大学二松学舎文学談話室

 書物は歴史と共に、歴史は書物と共に。
『青年のための読書クラブ』は、今回の「大学読書人大賞」にノミネートされている『ばらばら死体の夜』と著者を同じくし、また時間や空間のズレているカケラ=エピソードをひとつに結び合わせているという構造も共通している。とは言え、後者のズレに対し、前者のズレは非常に大きい。ゆえに、『青年のための読書クラブ』を読了したとき、我々はそこで繰り広げられる100年という歴史の営みにまず圧倒され、驚嘆と悦楽を同時に味わうことになる。これは代表作『赤朽葉家の伝説』しかり、桜庭の本領発揮と讃えるべき作品である。
 どういうことか。綺麗に整列された文字の連なりから世界を描くという行為=読書体験をいささかでも欠落させぬよう、具体的な紹介は差し控えるが、本作ではとあるミッション・スクールにおける、学園の正史には残らない/残したくないような事件が展開される。そしてそれらの事件はその身に「孤高」を宿した読書好きな少女たち=読書クラブ員の手によって、読書クラブ誌に記述されていく。そう、我々が読んでいるのはまさにそのクラブ誌なのである。公式には残らない物語が本というメディアによって歴史の荒波の中を航行していき、歴代のクラブ員たちによって読まれ、書き足されていく。その様は、ときにスリリングで、ときに愉楽を生む。また、書くという行為に対してメタ的な態度を取る作品は、しばしばその現実性を主張する。我々の史実に基づく社会情勢が反映された描写があるために、その効果が加速している点も魅力のひとつだろう。しかし何を置いても特筆すべき美点は、桜庭の十八番である古典文学との戯れだ。読書クラブ員の手によって編まれたクラブ誌に登場する事件は、そのことごとくが古典文学という装置によって駆動していく。言わばパロディである。あるときは『シラノ・ド・ベルジュラック』、あるときは『紅はこべ』というように、クラブ誌によって時代に痕跡を穿っていくことになる事件が、まさに時代による風化を逃れてなお存在している古典により紡がれていくという一種のユニゾンを前にして、我々は読書行為の悦びと再会する。
 この推薦文が、『青年のための読書クラブ』という固有名を「大学読書人大賞」という歴史に華々しく刻印するような、加えて、未来の読者へ渡すための大きな架け橋の一助となることを祈っている。

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