ディスコ探偵水曜日 上・中・下

  • 『ディスコ探偵水曜日 上・中・下』

  • 舞城王太郎
  • 新潮文庫
  • 580・660・820円(税込)
  • 2011年2月
  • ディスコウェンズデイ。自称迷子探偵。ある水曜日、彼と共に暮らす6歳の少女、梢の体が急に成長を遂げ、意識が未来の彼女と入れ替わるという現象が起こる。しかしこれはディスコが挑む謎の始まりでしかなかった。

TOPPA!!!

筑波大学ミステリー研究会

 迷子探し専門の探偵、ディスコ・ウェンズデイ。物語の発端は、共に暮らす山岸梢という六歳の少女に十七歳の梢が出入りし(身体も大きくなる)、それが繰り返されることだ。十七歳の梢や初恋の人ノーマ・ブラウンの顔に整形した勺子の登場に翻弄されるディスコだが、唐突に今度は島田桔梗という女の子が六歳の梢の中に入り込む。さらには連続女子中学生昏睡事件も絡む。相次ぐ出来事に流されるように、ディスコは梢(六歳)の魂を追って名探偵が集まるパインハウスへと赴いて行く。
 こんなあらすじなんて「文脈」をきちんと読まなければ意味がないのかも知れない。予測なんてつけようがない超展開の連続に、読者はひたすら振り回されるのが本作の特徴だ。

 八極幸有(はっきょくさちあり)、蝶空寺快楽(ちょうくうじけらく)、大爆笑カレー、出逗海(でずうみ)スタイルなど、奇妙な名前の「名探偵」たちが集まるパインハウスでは、「第十九回メフィスト賞を受賞した」作家・暗病院終了(おわる)が殺された事件の犯人を見つけようと推理していた。しかしここが(も)またとんでもない。
 「名探偵」たちは奇想とも呼ぶべき推理を繰り出す。それまでの伏線を拾い上げ、一つの推理(物語)として成立しているそれは、推理直後の新たな事実の発見と、異なる「名探偵」の推理によって覆される。形だけなら推理小説におなじみのどんでん返しであるが、それが幾度も繰り返されるのだ。読者も、そして主人公ディスコも考える暇など与えられない。推理を間違えた「名探偵」は、箸をその眼から脳まで突き刺された死体で発見されるという型破りっぷり。
 このパインハウスという舞台は、とことんまで推理小説の物語空間を戯画化している。「名探偵が登場するような探偵小説ってそういうもんだ。無駄な要素はない。だからこいつらは間違え、死んでいく」。この物語空間では、現実では統一されることがないはずの、あらゆる出来事がひとつの文脈=推理に載せることが可能だ。しかし、パインハウスでは間違えることのない「名探偵」の推理が容易に覆される。それは作者=神が、新たな事実をページに書き加えるだけで実行されてしまう。
 怒涛の推理の連続により、ディスコはまったく考えることも行動することも出来ず、場の「文脈」に流されていくのだが、ここでたいていの読者もディスコと同じく振り回されっぱなしだろう。そしてまた、私には舞城という作者自身もこの視点に重なって見えるのだ。

 舞城王太郎はデビュー作『煙か土か食い物』から『暗闇の中で子供』など多くの作品で、「推理」を作品に組み込んできた。それは既存の推理小説とは異なった使い方であり、謎と推理と解明の距離が異様に近かったりする(例えば、見つけた謎が一瞬で奇想的推理によって解明されるなど)。本作『ディスコ探偵水曜日』は、舞城自身がこれまでモチーフに選んできた推理小説的物語空間そのものと、それを構成する「探偵」「推理」といった要素に真っ向から向き合い、そして突き抜けようとした作品であるのではないか。もちろん、あらゆる小説で作者は作品を書きながら思考を続けるものであるが、本作ではパインハウスという戯画化され、凝縮された舞台設定が、舞城自身が踏み越えるための舞台のように思えるのだ。ディスコが「考える」ことを説かれるように、作者自身もひたすら「考える」ことを続ける。
 作者=神の存在を意識させる物語空間は、ディスコが「考える」こと(それは疑い続けることでもある)で、既存の世界という文脈を相対化し、認識の再構成を図ったと同時に、作者自身が考え、考え、考え続けた軌跡でもあるのだ。ディスコが疑い、考え続けた結果、信じられないほどにどこまでもぶっ飛んで、突き抜けていったように、舞城も遥か彼方まで進み続ける。そして、読者も作品を通して共に歩むことで、限界など感じさせない思考の宇宙を垣間見ることが出来るのだ。

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