ディスコ探偵水曜日 上・中・下

  • 『ディスコ探偵水曜日 上・中・下』

  • 舞城王太郎
  • 新潮文庫
  • 580・660・820円(税込)
  • 2011年2月
  • ディスコウェンズデイ。自称迷子探偵。ある水曜日、彼と共に暮らす6歳の少女、梢の体が急に成長を遂げ、意識が未来の彼女と入れ替わるという現象が起こる。しかしこれはディスコが挑む謎の始まりでしかなかった。

世界と踊る意志

明治学院大学文芸部

 この本を紹介しようと言って多くを語りたがる人は、実はあまりいないのではないかと思う。自分が著者の意志に呑みこまれた瞬間を憶えているからだ。だから難しい。これから読まれる人たちからあの瞬間を奪ってしまわないように、しかしそれでも浮き起こされた熱をごまかすことなく、なんとかこの本のことを語ってみたい。語りたい、と衝き動かされる。この、突き抜けた「意志の」小説のことを。
 著者・舞城王太郎の小説の登場人物たちはいつだって思考してきた。それはデビュー作から見られる特徴のひとつだ。彼らは巡らせた思考をもとにして、力強い意志で突き進んできた。
 『ディスコ探偵水曜日』はそうした舞城小説のひとつの集大成だ。「人の意識は世界の形を変えられる」。時間も空間も超える、究極的な意志がそこに描かれる。これは、そういう物語だ。縦横に広がる世界のなかにあって、ぎゅっと次元を超えていく「意志の」物語。そうして登場人物たちは「世界」を股にかけて、やはり突き進む。突き進むから、超えられる。
 そしてそれを著者の迷いを伺わせない筆致が、軽快に、刻み込むように、私たちに届けてくれる。スケールをどんどんと開いていく物語のなかで私たちが迷わずにすむのは、ひとえにその力強さゆえだろう。圧巻。そう言うほかない。私たちは物語の内外で、登場人物たちのものと著者のもの、ふたつの強い意志のベクトルに触れるのだ。
 意志に触れるのはいいことだ、と私は思う。その熱は人から人に伝わるからだ。
私たちは「大学生」として日々を生きているけれど、おそらくは多くの人にとって、それは楽なことではないだろう。いや、違うかもしれない。と言うよりも、楽に生きることが「楽」ではないというような、そんな感覚だろうか。そこで過ごしていてつくづく思うが、大学は不思議なところだ。これまで過ごしてきたいわゆる「学校」ともどこか違うし、これから出ていく「社会」とも違うのだろう。湿気ていて、火がつきづらい。そんな風に思っている人が、多勢と言い切る気はないけれど、それでもそれなりにはいるのではないか。なんというか、それがすこし「大学生らしい」のかもしれない、と私は思っている。個人的な実感でしかないので、あまり根拠のない話で申しわけないけれど。
 しかしだから私は大学生にこそ、この本を薦めたい。強い意志の熱に触れてほしい。それに似たものが自分のなかにも見つかるかもしれない。私は、見つけられた。火がついた。でなければ、こんなところでも語ってもいないのだ、おそらく。
 これは小説だ。フィクションだ。しかし嘘ではない。私たちの意志は世界と踊れるのだ。そのことに気付いてさえしまえば。

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