図書館戦争

  • 『図書館戦争』

  • 有川浩
  • 角川文庫
  • 700円(税込)
  • 2011年4月
  • 図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる法律として「メディア良化法」が施行された現代。表現の自由を守るために、図書隊は奮闘する。

心根としての男らしさ、女らしさ

推薦文No.4-2
東洋大学創作研究会

 2019年。架空の現代日本を舞台に、本を愛し表現の自由を守ろうと戦う者たちを描いたエンタテインメント小説、それが本書「図書館戦争」である。
 本作品の舞台背景には、公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる目的で制定された「メディア良化法」を武器に検閲を行う「メディア良化委員会」と、図書館の自由に関する宣言をもとにした「図書館の自由法」を盾にメディア良化法の検閲と戦う「図書隊」という対立軸がある。
 公序良俗を乱すような表現とは何だろうか。極端ではあるが、作中の例をひとつ挙げると「こじきのおじいさん」という言葉がある。それに対して推奨される表現は「住所不定無職のおじいさん」である。その言葉がどう使われたかに関わらず「こじき」という表現が好ましくないとされ、その本は検閲対象となり回収されてしまう。このように、低俗な内容であることや差別用語が使われていることなど、社会に相応しくないというレッテルを貼られ臭いものに蓋をするように、本が回収され、表現の自由は束縛されていく。
 国家機関による言論弾圧が行われる検閲社会において、武装した図書館が本と表現の自由を守るために時に銃撃戦すら行う様を、荒唐無稽だとあなたは笑えるだろうか。

 タイトルで「図書館」の後に「戦争」と物々しい単語が続き、先に述べた設定と合わせて暗く重い内容かと思われるかもしれないがそれはこの作品の一面に過ぎない。もちろん、表現の自由、検閲、自主規制やタブーに切り込む読み方や、昨今の東京都の青少年健全育成条例改正問題といった現実の諸事象とリンクさせる読み方もあると思う。
 だがここではこれらのテーマを抱きながら、清々しいまでに颯爽と物語を駆け抜けていく主人公の笠原郁(かさはらいく)や、登場人物たちのそれぞれの恋模様、本を愛し職務に情熱をかける人々の格好よさについて紹介したい。
 笠原郁は高校生の時に偶然検閲の現場に出くわし、本と自身を救ってくれた図書隊員に憧れ隊員となる道を目指す。女性でありながら、しかし、男性とともに武器を持ち軍事訓練に励む彼女もひとりの女性である。普段は単純で男勝りな猪突猛進な性格の彼女が過去に助けてもらって以来、名も顔も知らぬ隊員を「王子様」と呼び憧れ恋抱き、甘いものを食べればニキビを気にする、そんな微笑ましい姿もみせる。
 冷静で厳しい鬼上官の堂上篤(どうじょうあつし)は、実は主人公に負けないくらいの熱血漢であるし、過去の経験から他人と距離を置く八方美人の柴崎麻子(しばさきあさこ)は、心の底では意地っ張りで寂しがり屋である。笑い上戸で物腰柔らかな先輩の小牧幹久(こまきみきひさ)も、大切な人のために激昂し感情をあらわにしたりする。
 本書を手に取り一頁でもめくってしまったら、あなたはもう作中に生きる彼らが織りなす恋あり笑いありシリアスありの物語の魅力にとりつかれてしまうだろう。彼らの会話のやり取りの絶妙さもまた、人物が上手く引き立てられていて面白い。

 彼女たちは失敗もするし迷いもする。それでも最後には前に進もうと歩き出す。理不尽に対し憤慨し、力の及ばない情けなさに泣き、恋に一喜一憂する彼らを見ていると、いつのまにか感情移入し、一緒になって怒り、泣き、笑っている自分に出会う。彼らの真っ直ぐな生き方に自然と身も引き締まる思いがする。そしてふと、自分のなかに溜まっていた色々な感情がすっ、とほどけて心に溶けていくような気がするのだ。それに登場人物たちによって描かれる、男らしい男性と女らしい女性のごく当たり前の関係にはどこかほっとさせられる。
 これから言葉を尽くし自分を表現して社会に出ていく大学生にこそ、この作品を深く深く味わって欲しい。

 どこまでも甘く、ちょっぴりほろ苦いチョコレートのような恋と戦いの物語を、ぜひ。

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