図書館戦争

  • 『図書館戦争』

  • 有川浩
  • 角川文庫
  • 700円(税込)
  • 2011年4月
  • 図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる法律として「メディア良化法」が施行された現代。表現の自由を守るために、図書隊は奮闘する。

私たちはあくまで一読者として表現の自由を守る

推薦文No.4-4
帝京大学文学研究会Literaters

 図書館戦争。なんて分かりやすいタイトルだ。だから好奇心から本書を手に取った人は、その内容にとてもインパクトを受けることになるだろう。なにしろ図書館の司書が重火器で武装して戦うという文字通りの話だなんて、下手すれば悪い冗談にもなりかねない設定だ。
 ところが読み進めてみると妙な説得力に引き込まれて、またエンターテイメントに徹していると思いきや、示唆に富んだ描写の数々は娯楽作品の域を越えている。この絶妙なバランスを実現させたのは作者の手腕はもちろん、本への並みならない情熱があったからこそだ。そう、この物語は全ての本好きに、あるいはこれから本を好きになる人に送る壮大なエールなのである。
 舞台はあらゆるメディアが合法的に取り締まられるもう一つの日本。書籍も映像作品も音楽作品も媒体を通じた表現という表現は検閲にかけられてしまう。全ての元凶は行為を合法とする「メディア良化法」にあり、これに対抗して施行されたのが「図書館の自由法」だ。かたや検閲権を行使する良化隊員と、かたや検閲から書籍を守る図書隊の誕生である。両者の抗争は次第に激化していき、図書館は半ば必然的に武装化を遂げていったのだ。
 本を狩るため守るために、人の血が流れる世界とはどういったものなのか、当然のように本を読む自分には想像もつかない。ただ連想せずにはいられない出来事として、東京都青少年健全育成条例を巡って物議を醸したことは記憶に新しい。多くの人や著名人たちがそれが表現の自由を侵害するとして反対活動をしたこともだ。
 条例は結果的に可決されてしまい、私がそのとき何を感じたかと言えば、何とも言えない不気味さだった。規制には明らかに穴があるのにも関わらず、結果的に認められてしまったことへの不気味さだ。条例の目的は有害図書の取捨選択にあるが、政府は一体なにを根拠にその本が健全かどうかを断言できるというのか。読者の数は決定側の人間よりも圧倒的に多いのである。全ての人が納得できる規制の実現などそもそもが無茶な考えなのだ。
 そうした本作に関連する出来事を推察するのも楽しみの一つだろう。他にもこの手のテーマを扱った小説を参考にしてみるのも面白い。たとえばレイ・ブラッドベリ著の『華氏451度』は言語統制を批判する作品としてはその代表格に当たる。いっさいの書物の所有を禁止する独裁政権の下で、淡々と市民の本を燃やしていく焚書官たち。この話の趣旨は、読書の喜びを知った主人公の焚書官に、独裁を糾弾させることで思想統制の愚かしさを説く点にある。ただ、そうでなくても本を手放すことに抵抗する老婦人が、本と共に燃やされることを選んだ場面は衝撃的で、その姿は話の全てを雄弁に語る。
 またジョージ・オーウェルが『1984年』で描いた未来はこれよりも更に凄惨な世界だ。読書はもちろんメディアの一切は国によって管理され、家庭内にまで及ぶ監視が人間のわずかな尊厳すらも奪う描写は、全体主義の恐ろしさをこれでもかと見せつけてくれる。二作とも半世紀前に書かれた作品で、内容は現代にも十分に通じる傑作だ。なによりも凄いのは、そんな昔の作家がここまでの未来を予見した想像力にある。当時から表現の自由を巡るやりとりはあったはずだが、取り扱うには水面下に追いやられやすい論題だ。それを小説という媒体を通して多くの読者に問題提起をもたらした彼らの功績は計り知れない。
 ときに社会の理不尽さをも文章に表すのが作家の役割である。警鐘を鳴らし、人々の意識を変える力が小説にあるとするならば、『図書館戦争』は表現の問題を考える新しい入門書としてふさわしい作品だ。誰からも親しまれやすいという拡散性があって、強いメッセージを託された本作にどれだけの爆発力があるのか、その影響力の行方に想像をかき立てられるのだ。

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