ハーモニー

  • 『ハーモニー』

  • 伊藤計劃
  • ハヤカワ文庫
  • 756円(税込)
  • 2010年12月
  • 21世紀後半、世界的混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築く。そんな見せかけの優しさが氾濫する世界で、少女たちは自殺を試みる。世界の混乱の陰に死ねなかった少女は、ただ一人死んだはずの少女の影を見る。

根絶できない病

推薦文No.5-2
筑波大学ミステリー研究会

『ハーモニー』はかつて中二病だった大人に向けた物語だと筆者は思っている。こんなことを書くと「何を言ってるんだこの勘違い野郎、引っ込んでろ」と学識高い御見物衆からのありがたいオコトバが飛んできそうで怖いのだけれど、とにかく筆者はそう思っている。
 そもそも中二病とはなんぞやということで、フリー百科事典Wikipediaとはてなキーワードを引いてみる。
「中二病(ちゅうにびょう)とは、思春期の少年少女にありがちな自意識過剰やコンプレックスから発する一部の言動傾向を小児病とからめ揶揄した俗語である。」
 はてなキーワードでは次のようにある。
「中学二年生(14歳)頃の発達途上の段階にありがちな発想や嗜好などを揶揄した言葉。重度の患者は勝手な思い込みから社会の規律に反した行動を引き起こすこともあるため、早めのケアが必要とされている。」
 どうも中二病は思春期の少年少女に特有な言動を揶揄する言葉らしい。
 主人公たちは、福祉厚生社会への反逆、大人になること(社会のリソースなること)への抵抗として、餓死を選ぶ。すべての病が消滅した作中の社会でもどうやら中二病は消滅しなかったようだ。社会にとって自分が大切なモノだとわかっているからこそ自分を傷つけることで大嫌いな社会に反抗できる。これこそまさに、中二病的な行動である。痛々しいのではなく、イタイタシイのだ。
 だからこそ、筆者はこの考え方に懐かしさを覚えた。反抗の対象は社会じゃなくても良いんだけど。みなさんは思春期が過ぎても憎いままの両親への反逆のために、自殺しちゃおうかと考えたりしなかった? 筆者は恥ずかしながら高校生の頃に考えたけど、怖くて何もできなかった。
 主人公たち3人は、筆者とは違って栄養を吸収しなくなる薬を飲むことに成功する。けれど、3人のうちで死ねたのは御冷ミァハだけで、残りの二人のキアンとトァンは死ねなかった。キアンは、社会に馴染んできちんとしたオトナになってしまったが、もう一方のわたしことトァンは、二十八歳になっても中二病的な気持ち、社会に対する違和感を持ち続けたまま生きている。
 思春期の理想の残り滓と現実の間で折り合いをつけて生きるトァンの姿に筆者は、かつての中二病と、イタイタシサを持ち合わせていた自分を精算する方法を見つけた。
 思春期の理想をいつまでも追い続けられないけれど、大人にもなれない凡人たちに向けた物語としても『ハーモニー』は読めるんじゃないかな。

参考URL
フリー百科事典Wikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E4%BA%8C%E7%97%85
はてなキーワード:http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C3%E6%C6%F3%C9%C2

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