ばらばら死体の夜

  • 『ばらばら死体の夜』

  • 桜庭一樹
  • 集英社
  • 1,575円(税込)
  • 2011年5月
  • 「もっと、もっと、ばらばらにしてあげなくては、ならないのです」。舞台はほんの2、3年前。人間が金に引き裂かれ、「ばらばら」になってしまう時代。「三百万円」という金額の重みを現実以上にリアルに描いた怪作。

切断・縫合・配列

二松学舎大学二松学舎文学談話室

 ばらばらにもかかわらず、つながってしまう。線条的に編まれた一遍の物語は、事後的な統合物に過ぎない。ゆえに、われわれはばらばらに過ぎないシークエンスに貫く一本のストーリーを見出すこともできれば、その一貫性ゆえに個別のシークエンスがそもそもばらばらであることに気づける。小説を読むとは、元来そのような行為をそれとは意識させないうちに強要するものであり、小説それ自体がそうしたツギハギの結晶である。それはあまりにも自明で、ともすればその事実をこうして改めて提示することは失笑を招かざるを得ないが、それは『ばらばら死体の夜』のようにそれらの特性を前景化させるような作品があるからという事実を忘れてはならない。
 いつかの記憶、まだ見ぬ未来。『ばらばら死体の夜』では、読者が読んでいる場面のいままさにその時間が「らったった」と奔放に往来する。「今日」に挿入される「昨日」と「明日」、そしてそうして編まれた各章それ自体がつながる前のパズルピースのように散らばっている。そのばらばらなピースがかろうじてまとまった風景を成し得るのは、桜庭一樹がそれらをフラットに配列してくれたからだ。それどころか、桜庭はそこに古典文学の引用というお馴染みのスパイスも抜かりなく添えている。ゆえに、われわれは『ばらばら死体の夜』における一本の軸=ストーリーが言外に宿してしまった意味と踊ることもできる。
 『ばらばら死体の夜』という物語がそうして編まれたように、だからこそ、当然ながら、登場人物たちもその動きを模倣する。教師と翻訳家として、家庭と愛人との双方の時間を生きる男性、お金という真紅な存在に固執し、古書店の二階で退廃的に暮らす女性、決して断絶できない記憶から逃げるように古書店を営む男性等々......彼らは決してひとつにはなれない、ばらばらな存在である。にもかかわらず、時として否が応でも縫合されてしまう。アクシデントと因果の輪は、たとえ人が死んでも必ず再帰してくる。彼らはどこまでもばらばらにひとりで生きねばならず、同時に決してひとりにはなり切れない。と、本作を読了したときにわれわれは気づく。われわれもまた、ばらばらな存在だったのだと。だから、私はあえて本作の内容には極力触れずにここまで来た。ばらばらでツギハギだらけのこの世界では、形式的=表層的な面からしか他者=作品に出会えないにもかかわらず、終ぞ離れ得ないつながりが芽生えてしまう、その可能性を信じて。

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