モダンタイムス 上・下

  • 『モダンタイムス 上・下』

  • 伊坂幸太郎
  • 講談社文庫
  • 590・690円(税込)
  • 2011年10月
  • システムエンジニアの渡辺は、ある日妻が雇った謎の男から拷問を受ける。得体の知れない妻の行動、上司の失踪、同僚の逮捕…。仕事でプログラム解析をしている途中で見つけた不可解なコードから、全ては始まっていた!

歯車の自覚

創価大学創作部

 私たちはどこかで知らず知らずの内に人を殺してはいないだろうか?
 何を馬鹿なことを言っているのだ、と思うだろう。順を追って説明したい。
 主人公である渡辺は自分の妻に雇われた謎の男の拷問を受けるところからこの本は始まる。それから、彼の身の回りではさらに妙なことが起きはじめる。上司が失踪し、同僚は逮捕され......不可解な現象を次々と目の当たりにした渡辺はこの原因を探るべく、行動していく。渡辺と共に、当惑しながら、恐怖しながらも読み進めていくと理不尽なものに遭遇することになる。
 作中にもちょっとだけ出てくるが『モダン・タイムス』という映画がある。産業革命により人は機械による大量生産を行う機械の一部分となり、人間の尊厳が失われている世の中を笑いで表現しているらしい。
 これは今の世の中でも同じだ。私たちは分業し、効率的に仕事をこなしている。だが、自分がやった仕事が実はその後どういう結果を生んでいるのかわからない。そして全体像を捕らえきることはできない。私たちは自分が何らかの仕事をしているのはわかるのだが、結局は巨大な何かの一部となり、歯車として働いているという部分で『モダン・タイムス』で描かれている状況となんら変わりがない。
 そこで、こんな例え話をすることができる――私が店員として働いていると客に刃物を売ることになった。もちろん仕事だから商品を売ったが、その刃物が結果的に殺人に使われてしまったということが起こり得る。
 またふざけたこと言っている、と思うかもしれない。だがこのように自分のしたことが巡り巡ってそのような事態が起きているのではないか、という疑問を湧かせてくれるのがこの作品だ。
 人々で構成された巨大な何かであり、それぞれの人は全体を把握していない以上、ただ仕事をしているだけで罪悪感もない。明確な悪意というものが存在しない、それでいて非情な何か。それが何であるか、自分の眼で確かめて欲しいと思う。

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