リトル・ピープルの時代

  • 『リトル・ピープルの時代』

  • 宇野常寛
  • 幻冬舎
  • 2,310円(税込)
  • 2011年7月
  • 春樹曰く、「もうビッグブラザーの出る幕はない」。ポップカルチャーを手掛かりに<拡張現実の時代>を読み解く、若手言論のシーンを代表する快作。作者の説く想像力で、私たちは世界を変えることができる。

現実を拡張する想像力(ちから)を

明治大学ミステリ研究会

 2011年3月11日、太平洋三陸沖から発生した地震は、私たちを「分断」させた。震災という非日常的な事態に直面させられた東日本と、直接的な被害がない故に変わらない日常を営む西日本。震災地からの微妙な距離と二次的被害のために、日常と非日常が混在してしまった東京。それはまさに、混乱を来している日本そのものを体現しているような状況にあった。非日常が目の前にあるのに、その現実から目を背け日常に回帰しようとする、思考停止に陥った人々――『リトル・ピープルの時代』は、震災以後の私たちの想像力を再起動させてくれる。
 著者である宇野常寛は、村上春樹論とウルトラマン、仮面ライダーを中心に展開する特撮ヒーロー論――まるで別の位相のふたつをアクロバティックに接続させる。村上春樹の作品論的転換と特撮史におけるウルトラマンの敗北/仮面ライダーの台頭を、本書では、「ビック・ブラザー/リトル・ピープル」というキーワードで繋げる。国家を疑似人格として機能させていたビッグ・ブラザー(大きな父)という回路は徐々に機能不全を起こし、誰もが否応なしにリトル・ピープル(小さな父)になってしまう世界。著者は現代を「リトル・ピープルの時代」だと言っている。
 私たち大学生を例に挙げてみよう。私たちは、複数の共同体(コミュニティ)に属している。それは例えば、大学でのクラスであり、クラブやサークルであり、住んでいる地域であり、アルバイト先などである。私たちは複数のコミュニティにすこしづつ所属している。もちろん他のコミュニティのことは、そこに属していない限りほとんど関知することはない。私たちはそうやって、島宇宙とも呼べる小さなコミュニティに属することで日々の生活を送っている。今や私たちを繋いでいるものは、国家のようなビッグ・ブラザーではなく、無数に乱立するリトル・ピープルである。
 ネットワークが世界をひとつに繋げることによって、世界からは〈外部〉が消失した。ビッグ・ブラザーによって支配されるのではなく、無数のリトル・ピープルたちが考え行動し、それらが無限に連鎖する、「リトル・ピープルの時代」となった。本書で提起されているのは、まさにその「リトル・ピープルの時代」が内包する問題である。現に東日本大震災で私たちは「分断」され、島宇宙は更に孤絶化していっている。私たちは想像力をもって、その現実と対面しなければならない。
 「リトル・ピープルの時代」である現代で私たちに必要とされるものとは? ――本書のメッセージをシンプルに述べるとするなら、それは「ハッキング」する想像力だ。〈いま、ここ〉である現実にどこまでも潜り込んでシステムを内部から書き換えることで、世界を多重化し、現実を拡張させる。私たちは今ある現実を拡張するために、どこでもない〈いま、ここ〉である現実に「潜る」ことが必要だ――より深く、深く。

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