折れた竜骨

  • 『折れた竜骨』

  • 米澤穂信
  • 東京創元社
  • 1,890円(税込)
  • 2010年11月
  • 舞台は中世ヨーロッパを思わせる、人々が闇を、魔を、未知を恐れる暗黒の時代。そんな時代に主人公は一人、近代的な理性を武器にどこまで戦うことができるのか。「ダーシー卿」を想わせるファンタジーミステリの傑作。

廃船、そして造船。

横浜国立大学生協読書推進委員会「友蔵」

 舞台は中世ヨーロッパ、ブリテン島の東。大小二つの島からなるソロン諸島。呪いも魔法も存在し、そばにある世界。年老いた衛兵エドウィー・シュアーの変死から物語が始まる。
 エドウィーの死から一か月。ソロン島領主の娘アミーナは放浪の騎士ファルクとその従者ニコラに出会う。ファルクは領主ローレントに恐るべき魔術を身に着けた"暗殺騎士"に彼の命が狙われていることを告げる......が、ローレントの死は遂げられてしまう。用いられた魔術は<走狗(ミニオン)>として他人を操るものだった。しかも操られたものにその記憶は残らないという悪魔のような術。
 ファルクは語る。
 <何も見落とさなければ真実は見出だせる。理性と論理は魔術をも打ち破る。>
 魔術の横行する世界で謎を解くための法はただこれ一つのみ。
 ホームズの言を借り、<不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる。>と言えば理解は容易いであろう。<走狗>候補の八人を不可能によって容疑者から消去する。そのテンポの良さが読者を物語に引き込む。"不可能であること"もファンタジー世界の生かし方の巧さに舌を巻く。
 また、領主殺害の謎と並行して語られるのが「呪われたデーン人」の存在だ。彼らは何故ソロン島に攻め込もうとするのか、どうして"呪われる"こととなったのか。小ソロン島に幽閉される呪われたデール人の若者トーステンが待つ者はなんなのか。殺人事件との関連性はあるのだろうか。謎と謎とが絡み合い更なる面白さが生む。
 米澤穂信の読者の視点に立った読みやすい言い回しと共に展開されるストーリー、読者に共感をもたらす騎士ファルクの数々の台詞。その中で、従者ニコラの人生、それは過去も未来をも包括したものであるが、に注目していただきたい。
 ニコラはまだ幼さを残す顔に冷めた目を持つ少年だ。騎士について諸国を旅してソロンまで流れ着いたこの少年に、海の先を夢見るアミーナはうらやましさを覚える。けれどニコラの旅の軌跡、旅の始まりを知り、気づく。アミーナとニコラとは同じなのだ、と。主語にあたる部分は実際に読んで知って欲しい。本書はファンタジーの世界にミステリー要素を持ち込んだだけの物語ではなく、アミーナとニコラの成長譚でもある。真実を見つめる勇気を手に入れていくニコラ。そんなニコラとのつながりの中でアミーナに訪れる心の変化。それがタイトル『折れた竜骨』に込められた意味なのだと最後にわかるだろう。

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最終候補作品

候補作品

折れた竜骨
(米澤穂信/東京創元社)

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