折れた竜骨

  • 『折れた竜骨』

  • 米澤穂信
  • 東京創元社
  • 1,890円(税込)
  • 2010年11月
  • 舞台は中世ヨーロッパを思わせる、人々が闇を、魔を、未知を恐れる暗黒の時代。そんな時代に主人公は一人、近代的な理性を武器にどこまで戦うことができるのか。「ダーシー卿」を想わせるファンタジーミステリの傑作。

ミステリーを愛する人

創価大学創作部

 米澤穂信のミステリーとしての設定を削ぎ落す精神が、たまらなく好きだ。化学や英語等の知識がなければ解き明かせないミステリーに、私はどことなく物足りなさを感じていた。誤解のないように言っておくが、そういった作品が嫌いなわけではない。むしろ、作者の幅広い知識に尊敬の念すら抱いている。ただ、読者に対してどこかフェアではないと感じてしまうのだ。
 米澤穂信は違う。勿論ミステリーという形式をとる以上、作中にトリックは用意されている。しかし読者に対して求めているのは知識ではない。求めているのは、観察眼だ。作中で述べられたことのみが、謎を紐解く上で必要な事項なのだ。そのため、トリックや犯人を明かす場面でも、非常に平易な説明になっているので読み易い。ミステリーをあまり読まないという人にとってもありがたいと思う。
 ミステリーが好きだ。しかし、多読家かと言えばそうではない。そんな私も『折れた竜骨』という作品が他のミステリーとは一線を画す作品だろうということは分かった。作品の舞台は12世紀末の欧州で、魔術や呪いといった類のものが、主人公たちのすぐそばに存在している世界である。2つの島からなるソロン諸島領主の命が狙われている、と告げられるところから謎解きが始まる。人を操って殺人者へと変えてしまう術を使う暗殺騎士や、呪われたデーン人という不死の体を持つ者たち。そんな聞き慣れない単語が渦巻く中で起こる殺人や密室からの脱走。ファンタジーとミステリーという2つの要素は常識的に考えれば相反するもののように聞こえるが、米澤穂信はこの2つの要素を見事に両立させてしまった。それどころか、それぞれの要素を一層面白くさせる要素へと変貌させてしまったのである。
 私は米澤穂信の作品が好きだ。ミステリーが好きな人、ミステリーをあまり読まない人、誰が読んでも米澤穂信の作品は面白いと感じるだろう。そんな作品が書けるのは米澤穂信のミステリーに対する愛情が並外れているからではないか。私はそう思う。ミステリーを誰よりも愛しているからこそ、読者との純粋な推理戦を心から楽しんでいるのだ、と。

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最終候補作品

候補作品

折れた竜骨
(米澤穂信/東京創元社)

神様のカルテ
(夏川草介/小学館文庫)

県庁おもてなし課
(有川浩/角川書店)

これはペンです
(円城塔/新潮社)

ジェノサイド
(高野和明/角川書店)

下町ロケット
(池井戸潤/小学館)

少女不十分
(西尾維新/講談社ノベルス)

すべて真夜中の恋人たち
(川上未映子/講談社)

ディスコ探偵水曜日 上・中・下
(舞城王太郎/新潮文庫)

ばらばら死体の夜
(桜庭一樹/集英社)

モダンタイムス 上・下
(伊坂幸太郎/講談社文庫)

リトル・ピープルの時代
(宇野常寛/幻冬舎)