神様のカルテ

  • 『神様のカルテ』

  • 夏川草介
  • 小学館文庫
  • 580円(税込)
  • 2011年6月
  • 栗原一止は、信州松本の地域医療を担う本庄病院に勤務する内科医である。この病院でどんな患者でも診てやりたいと考え、きりきり舞いで働く一止に、大学医局で最先端医療を学ばないかと声がかかる……。

幸せの材料

美作大学図書館ボランティアグループ

 なんという満悦感だ・・・私は嘆息した。読み終わってからの感想を主人公・一止の言葉を借りて挙げるとこうだ。
 温かいけれども、切なく、心に響く物語。まさに、そのような印象を受ける作品である。
 人が生きていく中で患うことを避けるのは困難である。そのような人にとって病院は欠かせない存在となっている。いや、病院というよりも今日の日本では、病気を治すという治療の場が求められている。
 しかし、医者に診てもらえるからといって完璧に病が治るということはそう多くない。早い話が、助からない場合もあるということだ。「生」と同じく「死」は存在する。
 まさにこのはざまを生きたのが安曇さんである。自分の病を受け入れた彼女の優しい言葉に、一止はどれだけの歯痒さを感じただろうか。医者の持つ悲しさ、もどかしさが安雲さんの手紙を読み終えて「悲しむことは苦手だ」という一言からシンと伝わってきた。まるで、彼の涙で滲んだ文字のようにじわじわと心に広がっていき、切なさを生んでいくのだ。このように助けることが出来なかったことに対しての後悔の念や、医者のエゴに苛まれているところを包んでくれるのがハルさんの温かさだ。ハルさんは、その名の通り春のような人だ。厳しい冬を過ごした先で待っていてくれる春だ。悲しいことだけじゃない、その先にはきっと温かさだってちゃんと待っていてくれている。それが人生だ。笑って、怒って、泣いて、そしてまた笑って生きていけるからこそ素晴らしいのだ。悲しみだって、いつかは大切なものへと形を変えていくこともある。幸せの材料は、決まっていないのである。だから、人生の思わぬところに幸せは転がっている。本書は、そんなことに気づかせてくれる。
 生きていくことで何が起こるか分からないが、何があってもそれらを忘れないようにしよう。人生という名のカルテに記録し、今がどんなに苦しくても悲しみの先の春を夢見て進んでいこう。

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