県庁おもてなし課

  • 『県庁おもてなし課』

  • 有川浩
  • 角川書店
  • 1,680円(税込)
  • 2011年3月
  • 観光立県を目指しとある県庁で生まれた“おもてなし課”。若手職員の掛水史貴は地元出身の作家にアドバイスされ、伝説となっている地域振興プランへとたどり着く。お役所と民間の狭間で揺れる掛水がとった行動とは?

さわやかな訓戒について

明治学院大学文芸部

 「爽」という氷菓子をご存知の方は、たぶん多かろうと思う。もしかすると食した方もいらっしゃるかもしれない。ご存知ない方はお近くのコンビニエンスストアに行ってみるとよろしい。あれはとても美味な上に、実にすっきりした食感で、食べ終わってみると、なにか清々しい心持ちになれる。もちろん、そりゃまあ冷たい氷菓子だからねえ、と仰る方もいらっしゃるだろう。まったくもってその通りではあるのだが――では、それが書籍ならばどうだろう?
 この本の読後の感覚が、上記のようなものだったとしたら。
 それはけっこう面白いことなんではないかなあ、と私は思う。

 本書の主人公は、高知県庁の「おもてなし課」なる部署に所属している若い男性職員である。多くの観光客をゲットするため型破りな発想を求められる彼らおもてなし課だが、「県庁ルール」にとらわれている思考からは、いかにも「お役所」的で、「独創性など欠片もありはしない」解答しか出てこない。頭を抱える彼らのもとに、やたら毒舌なオッサンと、やたら爽やかな女の子が現れた!――と、あらすじはまあこんな感じである。
 あまりにも魅力的な登場人物達が作中をわさわさ動き回っているので、自然、ページをめくる読者の視線も熱を帯びたものになる。ここには読書という行動の中に、実に正しいベクトルが働いている。そしてこの本に限らず、有川浩の作品は皆、そういうベクトルを引き出せていると言えるだろう。そしてそれらを彩る大切なファクターが「クサさ」である。例えば――「光を観るって書いて観光やなって」「少しはあのときよりカッコよくなれた」。こういう言葉が文中の絶妙なところに配置されている。お気付きの方もいらっしゃるかもしれないが、後者は恋愛絡みの言葉である。これもまた有川作品の特徴だが、やはり県庁おもてなし課にも、甘酸っぱい恋愛要素は多分に含まれているのである。そうした描写が読者をどきどきさせて、主人公達の恋の行く末を見守ることを余儀なくさせてしまう。
 そして主人公が、読者が抱いた感情が全て、ラストシーンの爽快感をより清々しいものにしてくれる。なんと親切な設計であることか!
 ――しかし、それだけでは終わらない。
 この作品は、驚くべきことに、我々に極上のエンタテイメントとして提供されていると同時に、この時代に警鐘を鳴らし得る書籍としても読むことができるのだ。
 主人公は、毒舌なオッサンと爽やかな女の子を筆頭にする民間人軍団との交流を通して、アイデアとは何たるか、「おもてなしマインド」とは何か、を掴んでいく。ところがそのアイデアというのが、蓋を開けてみれば、大学生でもすぐに考え付きそうなものなのである。これは役所と民間の考え方の違いというやつなのだが、そこに含まれている警告に、読者は気付くべきだろう。ああ――もしかしたら自分もこうなるかもしれない、と。
 ここで留意して頂きたいのは、役所勤めだから頭が固いというわけではない、それこそ固定観念だが、この作品では役所を一つのフィルタとしてではなく、だからこそのバイアスの象徴(そこには我々の偏見も言うまでもなく含まれている)として描いている点だ。
 そうしてようやく、意図的になのかは分からないが、偏ってものごとを見つめるものではないという、当たり前の、しかし本当に重要な一つの教訓がここに明示される。これは現代の社会人、大学生、ひいては全ての人々に、警告として訓示されている。
 これも読み進めていくにつれ、登場人物達によって唸らされ、考えさせられていく内に、はじめ頭の中に陣取っていた、なにかもやもやしたものがすかっと取れたような感覚を覚える。それは紛れもなく、本書に潜む教訓を受け取った証ではないだろうか?

 さて、締め括りの言葉として、ここで私は断言できる――これは社会に出ようとしている大学生に、今もっとも読んで頂きたい本であると。

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最終候補作品

候補作品

折れた竜骨
(米澤穂信/東京創元社)

神様のカルテ
(夏川草介/小学館文庫)

県庁おもてなし課
(有川浩/角川書店)

これはペンです
(円城塔/新潮社)

ジェノサイド
(高野和明/角川書店)

下町ロケット
(池井戸潤/小学館)

少女不十分
(西尾維新/講談社ノベルス)

すべて真夜中の恋人たち
(川上未映子/講談社)

ディスコ探偵水曜日 上・中・下
(舞城王太郎/新潮文庫)

ばらばら死体の夜
(桜庭一樹/集英社)

モダンタイムス 上・下
(伊坂幸太郎/講談社文庫)

リトル・ピープルの時代
(宇野常寛/幻冬舎)