県庁おもてなし課

  • 『県庁おもてなし課』

  • 有川浩
  • 角川書店
  • 1,680円(税込)
  • 2011年3月
  • 観光立県を目指しとある県庁で生まれた“おもてなし課”。若手職員の掛水史貴は地元出身の作家にアドバイスされ、伝説となっている地域振興プランへとたどり着く。お役所と民間の狭間で揺れる掛水がとった行動とは?

ビジネス成功のためのふたつの要素

国際基督教大学ICUペン(先)クラブ

 「昔、水族館の主役はマンボウだったのだよ。」
 巨大な水槽を悠然と泳ぐジンベイザメを呆然と眺めながら、父が呟いた。不恰好な丸い体をした小さなマンボウは、清掃員の後を追いかけるようにして、水槽の端の方をちょろちょろと泳いでいた。なんと愛くるしいのであろう。ほうっとため息をついた私の横で、どこの誰とも知らぬ一対のカップルが、ジンベイザメを指さして感嘆の声を挙げた。主役の座を失ったマンボウには目もくれない。しかし、人とはそうしたものである。興味のないものには、とことん興味を示さない。些かの下心を持った無邪気な男女に対して様々な不満感を覚えた私も、やはり圧倒的な存在感を放つジンベイザメに対して、畏敬の念を現さずにはいれなかった。畢竟、時代は移りゆくものであり、同時に人々は新しいものを求めるものである。これが、正しい。某海遊館の方々は正しい選択をした。もし、彼らの中に、「俺はマンボウに一生を捧げた人間だ。ジンベイザメなぞ認めるか」と豪語したものが居たとしたら、その人の精神は立派である。しかし、彼の崇高なる精神は、水族館の経営者、転じて、水族館を県の観光地として紹介している県庁の人間にとっては、ビジネスを破滅へと導く微粒子でしかない。絶えず新しいものを取り入れる。これが、観光客を引き寄せる秘訣である。ビジネス成功のためには、妙な矜持や拘りは、かなぐり捨てるがヨロシイ。
 さて、ビジネスを成功させるためにもう一つ欠かせない要素は、ずばり女性である。特に思考の硬直しがちな県庁とかそういうところにこそ必要とされるだろう。県庁の人間は、公務員ではなく、且つ、民衆の主張を理解した一般人の女性を雇うべきである。若い女性であったら一層良い。下手したら、そのままゴールインである。また、彼女たちの主張する意見は逐一取り入れた方が良かろう。女性の慧眼は馬鹿に出来ない。彼女たちの意見を鼻で笑ったものは、後々痛い目を見ることになる。努々、疑うことなかれ。
 そんなこんなで、今回私が推薦するのは、有川浩氏の『県庁おもてなし課』である。高知県の県庁に設立された「おもてなし課」の人間たちが高知県の繁栄を取り戻すべく奮闘する物語だ。そこには、ふるさとを愛する人々の姿があり、お役所マインドから脱却しビジネスを成功させんと足掻く県職員たちがおり、水晶のように光り輝く女性の慧眼があり、(有川氏得意の)あたたかな恋の物語がある。「人生は何となく上手くいく。Let it be」等と宣い、鷹揚と本ばかり読んでいる大学生にお勧めしたい。「そんなわけあるか!」と有川氏自ら、諸君らの横面に鉄拳を喰らわせてくれることであろう(もちろん、だからこそおもしろいのだが)。ぜひ御一読あれ。

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最終候補作品

候補作品

折れた竜骨
(米澤穂信/東京創元社)

神様のカルテ
(夏川草介/小学館文庫)

県庁おもてなし課
(有川浩/角川書店)

これはペンです
(円城塔/新潮社)

ジェノサイド
(高野和明/角川書店)

下町ロケット
(池井戸潤/小学館)

少女不十分
(西尾維新/講談社ノベルス)

すべて真夜中の恋人たち
(川上未映子/講談社)

ディスコ探偵水曜日 上・中・下
(舞城王太郎/新潮文庫)

ばらばら死体の夜
(桜庭一樹/集英社)

モダンタイムス 上・下
(伊坂幸太郎/講談社文庫)

リトル・ピープルの時代
(宇野常寛/幻冬舎)