下町ロケット

  • 『下町ロケット』

  • 池井戸潤
  • 小学館
  • 1,785円(税込)
  • 2010年11月
  • その特許がなければロケットは飛ばない――。最先端特許を取得した町工場は資金繰り、法廷闘争、内部分裂や企業買収とまさに崖っぷち。モノ作りに情熱を燃やし続ける男たちの意地とプライドを賭した戦いがここにある。

リアルを描く小説で

立教大学文芸思想研究会

 「99.7%」この数字が何を示しているかご存じだろうか。

 正解は、日本における中小企業の割合。多くの人はこの事実を知らなかっただろう。私達がよく知っているのはCMや広告に出ている大企業ばかりである。しかしそれ以外にもこんなにも多くの中小企業があって、彼らが日本の経済を支えているという現実があるのだ。『下町ロケット』はそんな中小企業の社長、佃航平と彼率いる佃製作所の社員達の奮闘を描いた物語である。
 なぜこの小説を大学生に読んで欲しいのか。簡単に言おう、「現実」と「未来」を見つめて欲しい。
 『下町ロケット』はリアルだ。日本の企業の多くを占める中小企業の厳しい現実、モノ作りの難しさ、社会人としての人間関係の闇、様々な環境に置かれている登場人物の生き方。それらが至るところに詰め込まれている。そして、全てはこの現実の社会で起こりうることだ。フィクションでありながら、リアル。下請けいじめ、財政難、卑劣なライバル企業との裁判での闘い、佃製作所が持つ特許を巡る争い、社員達との人間関係の亀裂、佃自身の家族とのすれ違い......。物語内で、佃製作所は、そして佃自身も様々な困難に見舞われる。このような困難は、必ず私達にも付きまとってくる。こんな現実を私達は理解しなければならない。社会の縮図がこの小説の中にはある。大学生として、これから社会の一員となる人間として、是非読んでもらいたい。この社会の暗い部分を、これから先生きなければならない世界を。そして、多くの登場人物から学んで欲しい。どのようにこのリアルを生きて行くかを。
 そしてもう一つ、「未来」を見て欲しい。この本を読んで、あなたは感じるかもしれない。これが現実か。こんなにも辛くて、汚い世界なのか。しかし、佃は、佃製作所はこの困難を乗り越えて行く。懸命に、誠意を持って、真っ直ぐと。その精神に私は感銘を受けた。そして、その根底にあるもの、それが佃航平という男の「夢」だった。佃は元々ロケット開発の研究者であり、ロケットを飛ばすという大きな夢を持っていた。彼はその夢を一度諦め、佃製作所の社長となったが、それが佃製作所の技術力の源となり、多くの困難を乗り越える原動力となった。『下町ロケット』では特許を巡る争いが全体を通して繰り広げられるが、佃がそれを守り通すことが出来たのも彼の夢があったからこそだ。
 何度も言うが、小説はフィクションだ。例えば実在する企業があったとして、例えばそれがこの小説のように大きな困難に直面したとして、実際にそれを乗り越えられるかといったら確実に「YES」とは言えない。むしろ難しいだろう。しかし、夢を持って、それに立ち向かい乗り越えた男が『下町ロケット』にはいる。これは大きな励みとなる。
 あなたは、夢を持っているだろうか。どんな困難も越えてみせるという情熱を注いでいるだろうか。この小説を読んで、今一度考えて欲しい。あなたが描く未来を、そこにある夢を。
 最後に。あれこれ言ったが、『下町ロケット』は純粋に面白い。何を考えずとも面白い。単純だ、読めば楽しめる。いわゆるあからさまに悪いことをしようとしている敵がいて、それを四苦八苦しながらも倒していくような爽快感。作者池井戸潤の知識から生まれたリアルに限りなく近い世界観。そんな小説内のリアルを夢や信念を持って突っ走っていく登場人物から、私達が暮らす現実とそこで何を見据えて生きていくかを考えていただければ幸いだ。

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