少女不十分

  • 『少女不十分』

  • 西尾維新
  • 講談社ノベルス
  • 882円(税込)
  • 2011年9月
  • 作家である僕が10年前を語る――『少女不十分』についてこれ以上語るのは野暮、というものでしょう。すでに野暮かもしれませんが。私がただひとつこの本にいえることは、ネタバレ厳禁!  この一語に尽きます。

「ダメ男」と付き合う理由

法政大学もの書き同盟

 西尾維新作品に対する私の気持ちを、誤解を恐れずに表すなら、「ダメ男にひっかかってしまった女の子」というのが一番正確だと思う。
 「なんでこんな人と付き合ってるんだろう......でも、好きなんだもん」という感じだ。

 馬鹿にしているわけではないのを分かってほしい。西尾維新作品のストーリーもキャラクターも言葉遊びもギャグもエロもテンポも大好きだし、一流だと思う。けれども、だからこそ、そのエンターテイメント性――たとえば過剰なまでのエロ要素、過激なバトル、しつこい言葉遊び、など――に、時々うんざりするというか、「ダメ男」的要素を見るのである。
 それでも読まずにいられない。なんといっても、面白いのだ。また筆が速いため次々と作品が出版され、出版されるとつい読んでしまう。まさに「でも好きなんだもん」だ。なんでこんなにくだらなくて面白い小説をこんなペースで出すんだ、何を考えてるんだ西尾維新と講談社、と理不尽な怒りを覚えることすらある。

 この物語の冒頭で、主人公は「デビューして十年、三十路になってしまった小説家」であると語られる。この主人公が2002年にデビューした西尾維新本人を模していることは数ページ読めば明らかだ。続けて、主人公は小説家になるきっかけとなったトラウマについて語り始める。

 十年前、主人公は小学生の女の子が交通事故にあう場面に遭遇した。そこで主人公が目にしたのは、その女の子と一緒に携帯ゲームをしながら歩いていた少女の奇妙な行動だった。少女は友達が事故に遭ってバラバラになったのを見たのにもかかわらず、手元のゲーム機に視線を戻し、セーブをして電源を落としてきちんとしまってから、「○○ちゃん!」と涙を流して駆け寄ったのだ。

 その異様な行動は主人公に強い印象を残す。その数日後、主人公はその少女、「U」と再会する。Uは主人公を小刀のようなもので脅して、彼女の家に連行する。主人公は仮にも大学生の男性、抵抗して逃げることは容易だったが、「虚を突かれて」なんとなく逃げそびれているうちに、物置に閉じ込められ、Uに「飼われる」ことになってしまう。

 文章の中で主人公は、これは「物語」ではなく「事件」だと何度も繰り返す。自分の身に本当に起こったことだ、と。私たち読者はそのたびに「これは西尾維新本人のことなのではないか」と一瞬思わされる。でもフィクションなんだろうな、と思いながら、いつもの西尾維新節に引きこまれていく。

 そうして読み進めているうちに、私たちは気づく。これはきっとフィクションだ。それでもここに書かれている、本文の言葉に即するならば「原点」に、嘘は無いのではないだろうか、と。

 物語ることの意味。どこまでもエンターテイメントであることの意義。西尾維新が出発した原点にして目指し続ける終着点が、ここには描かれている。そしてそれは、西尾維新ファンだけではなく、物語る人、物語を受け取る人、エンターテイナーでありたいと願う人、エンターテイメントを求めている人たちすべてに、すとんと落ちてくる。

 ラスト近くのあるシーンで、私たちは「ダメ男」と付き合い続ける理由をようやく知る――あるいは、知った気になることができる。西尾維新はこんなことを考えていたのか、と。

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少女不十分
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