少女不十分

  • 『少女不十分』

  • 西尾維新
  • 講談社ノベルス
  • 882円(税込)
  • 2011年9月
  • 作家である僕が10年前を語る――『少女不十分』についてこれ以上語るのは野暮、というものでしょう。すでに野暮かもしれませんが。私がただひとつこの本にいえることは、ネタバレ厳禁!  この一語に尽きます。

正しい「暇」の使い方

白百合女子大学文芸部

 大学生に読んでほしい? じゃあ"大学生"ってなんだ?
 ......そうか、モラトリアムという名の暇を持て余し大学という機関に身を置いてルーチンワークのように日々を消化してく青年たちのことか。「何か」になれそうな根拠のない野望と地に足をつけた価値観と大人でも子どもでもない浮遊感に身を削られあるいは背を押させながら過ごす日々。子どもの頃とは違う部分で多感な時期。それが大学生たる者の姿だろう。暇というと語弊が生じるかもしれないが、自己の意思で何に費やすか決められる時間というのは本来の姿は「暇」であるという気がして押し付けるつもりはないがここでの私の認識は、今述べたことであると前置きさせてもらおう。暇をどう消化するか。アルバイト、コンパ、スポーツ、法に触れない範囲でのギャンブル、真面目に勉強してみる、なんだっていい。中には「大学読書人大賞」とかいう物好きがやる賞に関わる人もいるだろう。暇を何に使うべきか考えようじゃないか。
 西尾維新といえばちょっと一筋縄にはいかない作家だ。『少女不十分』というタイトルとどこか不気味な表紙の少女、二段組みの書式。手に取りやすい大衆小説ではないし、大学図書館が自主的に入荷して薦めてくれそうにもない。主人公は「小説というものを書いた覚えがない」小説家である。三十路の彼はその訳や自身の価値観をそれはもう不器用に語り、記憶を十年さかのぼる。そう、ちょうど大学生の頃の記憶を、その「事件」を記すことになるのだ。そこにあるのは、余計に物事を考えてしまう小心者でまともで真面目で普通の線引きを少し超えただけの才能を持つ青年の姿だ。さてこれは青春小説か? いいや、交通事故でバラバラになる少女を目撃する場面から始まる青春小説なんて御免である。ならこれはサスペンスか。主人公が少女に背後をとられそのまま移動してわざわざ軟禁されるサスペンスがあってたまるか。では実は家族小説なのか。ここまできて家族小説かと思うやつは本を閉じた方がいい。わからないだろう。だってこれは物語ではなく、「出来事であり、事件」だからだ。ある日凄惨な交通事故を目にして、それに対して尋常な(そう、異常時において尋常な)行動をとった少女に軟禁される主人公。『少女不十分』である彼女との関わり。これはそれだけの「出来事」だったのか? ......それだけに西尾維新が十年を費やすと思うか? これは読んだものにしか味わえない。感動などと使い古された言い回しをするのは避けねばなるまい。繋がる。繋がるのだ。わからないだろう、読んでいない諸君には、さっぱりなんのことだか。
 自分の性格も将来も型に嵌めなくてはならない気がして型を探す傾向を身に着けつつある青年たち、小説も気づけばジャンルという型に嵌めてしまいたい年頃。そして何にでも使える時間を持つ、人生の青い春。モラトリアムという名の暇を持て余し大学という機関に身を置いてルーチンワークのように日々を消化してく青年たち。「何か」になれそうな根拠のない野望と地に足をつけた価値観、大人でも子どもでもない浮遊感は今こそ主人公と共有できる。そして明かされた繋がりの先、物語を手繰り寄せることもできる。その「暇」が今あるのだから。暇を何に使うべきか? これ以上の説明は必要あるまい。大学生、『少女不十分』を読みたまえ。

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