ふたりの距離の概算

  • 『ふたりの距離の概算』

  • 米澤穂信
  • 角川文庫
  • 580円(税込)
  • 2012年6月
  • 春。神山高校古典部にも一年生が入るが、ある日突然謎の状況と共に入部を取りやめてしまった。一体何が原因だったのか? 奉太郎は推理する。マラソン大会の20kmを走りながら。

我が青春の補填

推薦文No.17-2
大東文化大学國文學研究会

 青春は「甘酸っぱい」だけではない。
 「苦い」や「辛い」など、言葉で表現しがたい二度と口にしたくないような味もする。時に人は過去を追想することを止め、思い出を風化させる。

 みなさんは高校生活、充実して過ごせましたか。
 私は古典部のみんなと楽しく過ごしました。
 まず、そんな高校生活を共に過ごした古典部の仲間を紹介します。
 「やらなくてもいいことならやらない、やらなければいけないことは手短に」という省エネ主義を掲げた主人公、折木奉太郎。あまり物事に関心を持たない性格ゆえ、スポーツや勉強、恋愛などに精を出すことなく、順調にハイスクールライフを灰色に塗り潰している。しかし、そんな彼は自分の持つ特異な閃きから数々の事件を解決している。無気力な彼がなぜと思うでしょう。なぜなら、その彼を事件に巻き込む女の子、千反田えるの存在があるからです。
 普段は清楚で言葉遣いもよく、物腰の柔らかいお嬢様だが、自分の興味をひかれることがあると「私、気になります」と言い、強引に奉太郎に謎解きさせるのだ。
 そのほかに、奉太郎の親友、雑学の大家であり「あくまで自分はデータベース」と自称する福部里志。奉太郎と小中学校の腐れ縁、自分に妥協しない真面目な性格で、毒舌(主に奉太郎に向けられる)を持つ伊原摩耶花がいる。
 部員はこの4名。彼らはみな同級生で、こぢんまりとしたアットホームな雰囲気を醸し出す彼らの会話は、読んでいて微笑ましくなります。
 本書は「古典シリーズ」と呼ばれる「日常の謎」を解き明かしていく推理小説で、人が死んだり、殺人事件が起こったりすることはありません。ミステリー小説が苦手な人も楽しめるストーリーになっています。
 今作でシリーズ5作目。一年生だった彼らは二年生になり、新たに一年生が1人仮入部する。しかしある日、その子は謎の言葉を残し入部を断った。その謎を入部締切のせまったマラソン大会の最中に、奉太郎がその子との思い出を回想し、入部を断った理由を謎解きするというもの。走りながら(省エネ主義の彼は手を抜いています)謎解きする奉太郎は必見です。

 みなさんは高校の思い出は大切に持っていますか。それとも、忘れましたか。
 私は高校にマラソン大会が無かったので、本書を読んでマラソンをサボって走る人の気持ちが分かった気がします。真面目に走る人の心情も知りたかった気もします。
 真剣に取り組むもそうでないも、それは本人の自由。そこで生まれるものは栄華や後悔などさまざまだと思います。そこで手に入れたものをこれから先どのように持っていくか、それが重要なのだから。
 もし本書で手に入れた思い出があなたの「青春の充填」になれたなら、私はとてもうれしいです。

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