空飛ぶ広報室

  • 『空飛ぶ広報室』

  • 有川浩
  • 幻冬舎
  • 1,680円(税込)
  • 2012年7月
  • 不慮の事故でパイロット資格を剥奪された戦闘機パイロット空井大祐。彼の転勤先は個性的な先輩たちがいる広報室だった。東日本大震災を自衛隊目線で考えられる長篇小説。

自衛隊とは何か

推薦文No.7-2
中央大学文学会

 帯の文章である"職業、広報官。取り扱い商品は「航空自衛隊」です!"がまず心を掴んだ。自衛隊という言葉の硬さ、広報官という一般的な職業とは異なる響き。その二つの言葉を軽快な語り口調の文章が発していることがとても新鮮に感じ、ついつい手に取ってしまった。ハードカバーというやや高いハードルもこの文章の前には敵わなかった。

 幼いころから、映画『トップガン』でも有名なブルーインパルスのパイロットになることを夢見ていた主人公・空井。30歳前で異例の内示が決まったのもつかの間、交通事故で膝を壊し、パイロットになるのは不可能となった。そんな彼の今の職場は航空幕僚監部広報室である。
 そんなところから物語は始まる。

 浅学ゆえ、自衛隊を題材とした小説をいままで読んだことがなかったのだが、今回初めて読むことになった。気負っていたほど難しい文章ではなく、作中に出てくる用語一つ一つにある説明もわかりやすく、違和感なく読み進めることが出来た。読者を飽きさせず、自衛隊という堅苦しいイメージの付きまとう題材を見事に描き切っている。

 個性的な登場人物もこの作品を読みやすくしている要素の一つだろう。主人公である空井を始め、自衛隊を毛嫌いするディレクターのリカや広報室にいる鷺坂室長や片山、柚木などの同僚たち。彼らは、各々の個性を存分に主張しながら互いに関わり合い、刺激し合っていく。その中には軋轢や衝突も起きるものの、それが一段と彼らの人間としての個性を主張する。その魅力的なキャラクター性が程よいスパイスとなって、ページをめくる手は休まらなかった。

 このテーマでこんなにも読むことを苦痛にさせないのか、と感嘆した。そしてそれと共に、自らの自衛隊への認識と知識の甘さに恥ずかしい思いがした。

 大学生ともなれば、必然、自衛隊にまつわる憲法9条の問題が存在することを知らないわけがない。自衛隊の正当性について考えを持っている人は確かにいるだろう。しかし、そのうちの何%が自衛隊について正しい認識と知識を持っているのだろうか。そして、「自衛隊とは何か」を正しく答えられる人はどれだけいるのだろうか。

 パイロットとして自衛隊に入り、その後広報官となった空井は「自衛隊とは何か」を見て、感じ、考える。パイロットという夢が挫折したこと、それを受け入れること、広報官の大変さ、新しい人間関係の苦悩......。それらと空井は真摯に向き合い、周りにいる人々に助言や苦言をもらいながら、彼は今、自衛隊としての役割を改めて考える。

 『空飛ぶ広報室』では自衛隊を扱っていたが、何も自衛隊に限った話ではない。自分のしていることに無意識のうちに絶対の信頼を持っていたり、逆に自分と対極の位置にあるものに対して誤解や偏見を抱えたり、私たちは時々、物事の本質が見えていないことがある。

 本書を読み、感じ取れることはそんなことを気づかせてくれるのではないだろうか。

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