ダークゾーン

  • 『ダークゾーン』

  • 貴志祐介
  • ノン・ノベル(祥伝社)
  • 1,260円(税込)
  • 2012年8月
  • 人間が異形と化した駒、敵駒として生き返る戦士などの奇妙な戦闘条件。廃墟の島での戦いは、どこか将棋にも似ていたが…。新感覚バトルロワイアルの幕が切って落とされた。

最優秀推薦文

戦わなければ生き残れない!

推薦文No.8-1
早稲田大学早稲田ミステリクラブ

 「ダークゾーン」という異世界に浮かぶ、軍艦島の模型上で繰り広げられるデスゲームを描いた小説。ジャンルは、ホラーともファンタジーともミステリとも、あるいはその複合とも取れるように幅が広く、数多くの要素を内包している。全ての要素を挙げることは出来ない。しかし、この作品の骨子を一言で言い表すことなら出来る。闘争だ。戦わなければ生き残れない。何をおいても戦わなければならない。
 物語は主人公、塚田が異世界「ダークゾーン」で異形の仲間を統べる「赤の王将」として、敵たる「青の王将」と激しい戦いを繰り広げる「局」パートと、現実世界の塚田の生活を垣間見る「断章」パートを交互に繰り返す構成となっている。二つのパートを一つの章として追うことで、読者は「ダークゾーン」にまつわる謎に迫ってゆくという作りだ。一番の見所は「局」パート、架空の軍艦島で行われる戦闘である。赤と青、それぞれの王将は十八体の駒と化した人間を以って、互いの王将を殺りに行く。勝負は全部で七局。先に四勝した陣営が勝利し、敗北した陣営には完全なる消滅が待っている。
 赤と青の闘争は、権謀術数が飛び交う死闘となって展開する。将棋をベースにしたルールの構築はシンプルながらも奥深い。新たなルールが次第に開示されるに従って、戦局は次々と、スピーディにその姿を変える。七番勝負という長丁場は読者にとても長大なページ数として立ちはだかるが、二転三転する戦場を追っているうちに、我々もつい時間を忘れてしまう。ずしりとした本の厚みは、飽きの来ない展開を長く濃密に楽しめることの表れであるのだ。
 「ダークゾーン」における戦闘に読者が飲み込まれる理由は、そこが現実感のない世界観ながらも、緻密な設定と描写のためであろう。塚田の駒となって戦う駒は、元は人間ながらも異形の怪物と化していて、それぞれ「一つ眼(キュクロプス)」「死の手(リーサル・タッチ)」といった具合に固有の名称がつけられている。彼らの外見についての描写は決して文章で詳しく説明されているわけではない。しかし、言葉をさほど尽くしてもいないにも関わらず、彼らのグロテスクな姿は鮮明な映像として脳内で再現され、圧倒的なリアリティを持って迫ってくる。まさしく臭いまで伝わってくるかのような存在感が、ひしひしと伝わってくるのだ。
 このように非常に素早く、それこそ飛ぶように過ぎる「ダークゾーン」での闘争と対称的に、「断章」パートでの流れは緩やかだ。だがその底には、ともすれば「ダークゾーン」に満ちる空気をも凌ぐ不気味さが佇んでいる。それはこの日常から、いかにして異世界での殺し合いに繋がったのかという疑問が、読者の中にもたげているからかもしれない。
 様々な謎への疑問を抱きつつ、読者が辿り着くのは、ラスト「終章」である。この章で読者は世界の真実を知る。永きに渡る闘争の果てに何が待つかは、ぜひその目で確かめていただきたい。
 この小説は多ジャンルに渡る様々な要素をこれでもかと詰め込んだとても贅沢な作品だ。そしてその全てが、「ダークゾーン」における闘争に収斂してゆく。戦わなければ生き残れないのか、戦っても生き残れないのか、それはわからない。それでも戦いは続いてゆく。「ダークゾーン」にそれ以外のものはないのだから。

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