倒立する塔の殺人

  • 『倒立する塔の殺人』

  • 皆川博子
  • PHP文芸文庫
  • 720円(税込)
  • 2011年11月
  • 戦時中のミッションスクール。少女達の間の小説の回し書きと、実際の事件が交錯する。物語と現実が絡み合う万華鏡のように幻想的なミステリー。

浅はかであったことをここに記しておかねばならない

推薦文No.9-2
大東文化大学國文學研究会

 あなたはこの本の作者を知っているだろうか。実は、私はつい最近まで作家・皆川博子のことを知らなかった。ふと目に留まったタイトル『倒立する塔の殺人』の作者名を調べて私は愕然とする。
 読者としては衝動買いも良いが、やはり安定して面白いものを読みたい。そういった心理のもと作者情報を見て私が一番に飛びついたのは年齢だった。1930年生まれ――本年83歳だという。大変失礼であるが、その歳にしてなお小説を書くか。依然新作を出していると知り驚きを隠せない。

 しかしだ、年齢と作品の面白さが比例する訳ではないだろう。私は一度作者を否定する。内容に目を向ければ、大戦時代が背景の青春系で、殺人ミステリー物らしい。古いな、という気持ちが加速を見せる。ただ、読んでみたいとは思った。「どんなものか」と。作者に対して挑戦的な心があったからだ。そして挑発的な態度もあっただろう。私はこの本を購入するのだった。

 本を読み終える。
 私は素直にならざるを得なかった。白状しよう、私は望んでいたのだ。この本が「つまらない。自分に合わない」と切り捨てられることを。「やはり大したものではないな」と鼻で笑う自分の姿を。実際、この本がつまらなければ私は切り捨て、この手の本はもう読まないつもりでいた。マイナス思考で手に取っていた。嫌いなものを嫌いだと再確認するための一冊になるはずだった。
 《大戦前後の時代背景、女学院を舞台として、そこでは少女たちの間で小説の書き回しが流行していた。》――私はこの、言ってしまえば「昭和感」が非常に苦手であった。しかしこの本は文体、物語、人物、そのどれをとっても古臭さを感じさせなかった。教科書に載るような固い文章を想像していた私は、読み進めるごとに文章に対する心の警戒を解いていく。数時間前の挑発的な態度は何だったのか。《私の思考は足首でなされ、頭は単なる錘になった。》私は今までの考え方をやめ、倒立をして土下座をしたい気分だった。

 この本ほど現代の学生が読むことを想定されている本はない。少女たちの繊細な心理描写は時代の違う「私たち」に重なるよう丁寧に摺り合わせられており、作者からの歩み寄りが感じられるのだ。作者が私たちのことを気に掛け、一人一人の心情を形にしているのだと考えたら、この本を嫌いになることはできなかった。

 私はこの本を薦めたい。ただ、私のように捻くれた思想の持ち主もいるはずだ。そこで一つ、逃げ道を与えよう。気に入らなければ「やはり大したものではないな」と言えばいい。それでもいいと私は思う。その上で、この本を手に取ってみてはどうだろうか。

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