ナミヤ雑貨店の奇蹟

  • 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

  • 東野圭吾
  • 角川書店
  • 1,680円(税込)
  • 2012年3月
  • 時空を越えて交わされる、温かな手紙。東野圭吾が新たに送る、「時生」以来のタイムスリップ。その奇蹟に感涙の声続々、著者史上最も泣ける感動作。

人と人は繋がっている

推薦文No.10-1
山形大学文芸部

 人は悩みなしに生きていくことはできない。悩んだとき、助けてくれるのは身の回りに居る誰かだろう。人は悩むと相談をする。恋のこと。夢のこと。将来のこと。お金のこと。家族のこと。ましてモラトリアム期の最終局面を迎えた、大学生という立場の人たちならば、なおさら辛苦を舐めない生活など送れない。だから人に相談する。
 東野圭吾の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の舞台たるナミヤ雑貨店にも、そうした迷える羊たちが相談にやってくる――時空を超えて。人の気もない深夜、強盗をした少年たちは、逃走に使っていた車が壊れ、仕方なく今は廃屋となっているナミヤ雑貨店に身を潜める。すると、突然お店のシャッターの郵便口から手紙が投函される。どうやら、この雑貨店がまだ営業していたその昔、店主が手紙を介した悩み相談を受け持っていたらしい。しかし、なぜ今、廃屋となったこの店に、しかも深夜、手紙が投函されたのか? 試しに少年らが返信を書くと、ものの数分で返事が返ってくる。手紙のやり取りをする内に気付く。どうやら、ナミヤ雑貨店という建物を介して、数十年前と時間が繋がっているらしい。知識も経験もない少年たちは、時空を超えた悩み相談に答えるべく、ペンをとる。
 一方、数十年前、まだ営業していた頃のナミヤ雑貨店。店主である雄治は、身体も衰えていくばかり。人の相談に答えることを最後の生きがいにして、ナミヤ雑貨店に寄せられるどんな質問にも、真摯に回答する。やがて病に倒れ店を畳んだ雄治は、不思議な夢を見るようになった。ある予感に駆られて、雄治は息子の貴之にお願いする。今から三十三年後に、『一日だけナミヤ雑貨店の相談窓口が復活します』という旨の情報を流して欲しいと。そして、今夜、自分をナミヤ雑貨店に連れて行って欲しいと。困惑する貴之に雄治は告げる。三十三年後のナミヤ雑貨店に投書される手紙を、今夜、受け取れる気がするんだ、ということを。
 現代から過去の相談者へ、現代から三十三年前の店主へ、この二重の奇妙なタイムスリップを介して様々な相談者が話の中に登場する。ひとりひとりのエピソードは絶妙に交差し、次第に丸光園という児童養護施設へと収束していく。その過程は絶品で、巧みに張り巡らされた伏線が回収されながら、最終局面を迎えていく様は、静かに心を熱くしてくれる。読んだ後に、ほう、と息をつき、目を閉じて余韻に浸りたくなる。そんな作品だ。
 オムニバス形式の話が次第に交差していく、というのはよくある手法だが、東野圭吾は流石の手腕で巧みに読者を惹き込んでいく。ただ交差していくだけではない。辛いとき、苦しいとき、誰かに話を聞いて欲しくて、あるいは助けて欲しくて、人は人に相談する。人は常に誰かの支えを受けて生きている。そうした『悩みの相談』というものを、交差する物語の交点に置いているため、次第に人と人が交差していくにつれ、人と人の繋がりというものを強く感じるのだ。とりわけナミヤ雑貨店の店主の温かさに魅せられる。『どうか信じてください。今がどんなにやるせなくても、明日は今日より素晴らしいのだ、と』――作中の彼の言葉だ。何気ない言葉に人は助けられる。人々は常にどこかで緩やかに繋がっている。そう思うことで嬉しくなってくる。そんな、読んだ後で前向きな気分にさせてくれる一冊である。

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