百年法 上・下

  • 『百年法 上・下』

  • 山田宗樹
  • 角川書店
  • 各1,890円(税込)
  • 2012年7月
  • GHQによる共和制のもと、不老不死が実現した社会。しかし同時に制定された、必ず百年後に死ななければならない「百年法」。数々の国難を抱える日本に向けた、娯楽大作!

「本」を「読む」こと

推薦文No.14-1
大東文化大学國文學研究会

 私は、小学生のころから「本」というものが大好きだった。「本」は言葉ひとつで色んな世界へ連れて行ってくれるし、色んな景色を見せてくれる。小説家は言葉ひとつでこんなにも人の心を揺さぶれる。これ以上に素敵なものはないだろうと幼いながら思っていたし、今でもそう信じている。――私はそれらとどう向き合うべきなのだろうか。
 山田宗樹の「百年法」は、そんな私の心にある大きな確信を与えてくれた。
 舞台はヒト不老化技術が一般化した日本。不老不死の体を医療によって手に入れることが可能になった世界である。そして物語は、その永遠の「生」を強制的に終わらせる「百年法」の実現に奮闘する人々の話から始まる。ここで私は、おや、と思った。全人類の夢とも言うべき不老不死が叶った時の感動は描かれず、もはや不老不死の世界が限界に来ているところから始まる、という設定が意外に思われたのだ。初めから、この作品はきっと私の心に何かを残してくれるだろう、という予感めいたものがあった。そして、私のこの予感は一分たりとも外れることはなかった。
 この「百年法」の作者・山田宗樹は、政府の政策に翻弄される一般市民の視点だけでなく、同じく上司の思惑に翻弄される政府の人間の視点も余すところなく描いている。彼らの葛藤と戦いの狭間に立たされた読者の私は、この作品を読んでいる間ずっと戸惑っていた。作中、法律に背いて「生」を選ぼうとする国民の意思にも、やや強引と理解しながら必要悪として「百年法」を存続せねばならない政府の意思にも、力強く頷いてしまう自分に「いったいどっちなんだ!」と問いかけるばかりだったのだ。そして、これが小説の中だけの話でなく、現在の日本の状況にも通ずるものがあることに気づく。そう、例えば「核問題」だ。東日本大震災の影響で原子力発電所が被害を受け、近隣に住む人々は非難を余儀なくされた。そういうニュースばかり報道されていた時の私は、どちらかと言えば政府側に反感を持っていた。しかし今の私は、政府ばかり責めていていいのかと思っている。被害を被った人々は原子力の恐ろしさを身にしみて体感してしまったからこそ原発の閉鎖を望んだ。一方で政府側は原発を閉鎖したとしても、原子力なしでどこまでやれるか、それに代わるエネルギーがどこにあるか、常に今より先を考えなくてはならないのだから、いつでも国民の意に沿うことはできない。この「百年法」を読んだことで、国民の「今」を大事にしようとする意志も、政府の「国の未来」を守ろうとする意志も、現在の日本にもきっと等しくあるだろう、あるべきだろうと思うようになった。
 この物語が示唆しているのは政治という大きな問題だけにとどまらない。例えば「家族」や「友人」という概念だ。他にも、今の自分が置かれている状況と照らし合わせて考えられることがたくさん詰まっている作品である。
 
 小説家は「本」を通して様々なメッセージを私たちに発信している。物語という枠を飛び越えて作者が訴えていること、それに耳を傾けるのが読者の役目ではないだろうか。山田宗樹の「百年法」が、読者としての私がどうあるべきかを再確認させてくれた。
 そこにいるあなたも、この「生と死」が狂った世界で生きる人々の狭間に立って、そこかしこにちらばる作者の叫びに耳を澄ましてみるといい。私のように戸惑うかもしれない、下手をすれば恐怖さえ感じるだろう。それでも、目をそらしがたい壮大な物語が、ここにあるのだ。

推薦文一覧へ戻る

最終候補作品

候補作品