ひらいて

  • 『ひらいて』

  • 綿矢りさ
  • 新潮社
  • 1,260円(税込)
  • 2012年7月
  • 不器用で荒々しい、自分のことを考え、ただやみくもにまわりをなぎ払い、駆けていく初恋。女子高生・愛が恋した男子には恋人がいた。傷ついても、心を開いて生きていく物語。

異常とは恋愛

推薦文No.15-3
甲南大学文学研究会

 好きな人に恋人がいたから、その恋人を寝取る。
 この行動を理解できる人がいるのだろうか。少なくとも私には無理だ。同性愛者でも両性愛者でもない人間が自分でも説明できない衝動に任せて、嫌悪感を抱きながらも同性の人間を抱く。正常とはとても言えないだろう。
 だが、恋愛とは得てしてそういうものだ。一度好きになってしまえば、もう自分では止まることができない。わけがわからないまま理性は振り回され、理屈に合わない行動をし、自分で自分を傷つけながら感情だけが疾走していく。本当に心惹かれた時には、全てを抑制できなくなるはずなのだ。
 『ひらいて』はまさに、そういった恋愛を描き出している。主人公の愛は夜中の教室に忍び込んで、好きな人の机の上から手紙を漁り、裸になって教室で彼を呼び出す。こう書けば恐怖を感じさせるような描写だが、実際に読んでみれば苦しいほどに気持ちの大きさが伝わってくる。
 実際に、彼女の行動には恋する乙女がするような、微笑ましい行動も多くある。彼と少しでも喋るために勉強を教わりに行き、少しでも好かれようと自分の行動一つ一つを気にし、話した後は自分の言動を気に病む。彼女の恋はあくまで純粋なのだ。
 純粋すぎる思いのあまり、それまでの自分の生活をボロボロにし、周りすら傷つけていく。それでも止まり方が分からない。まだ若い、高校生らしい姿だ。
 この恋愛が素晴らしいものだとは、私は決して言わない。ただ、こういう形の恋愛に私たちはもっと触れるべきなのだ。
 小手先で上手くやり過ごし器用に立ちまわる。今の大学生にはそういった人があまりに多くないだろうか。自分の身を危ないところには置かず、スマートに振る舞う。社会で賢く生きていくのには正しい生き方だろう。
 けれど、私たちは自分では抑えきれない、溢れるような感情に一度でいいから触れてみるべきだ。自分の感情の本当の大きさを知らないままに生き続ける事は不幸だろうと思う。
 何も自分が実際に体験してみろとまでは言わない。ただこの作品を読めば、自分をも巻き込み壊しかねない感情の濁流を、一部でも感じられるはずだ。

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