マツリカ・マジョルカ

  • 『マツリカ・マジョルカ』

  • 相沢沙呼
  • 角川書店
  • 1,575円(税込)
  • 2012年2月
  • 柴山祐希、高校1年生。冴えない学園生活を送っていたが、廃墟に住む妖艶な美少女マツリカと出会う。彼女に翻弄されつつ、学園の謎を調査することに――。

過去を変える

推薦文No.18-2
関西大学現代文学研究部

 人は、誰しも過去を背負って生きている。今の励みになる過去もあれば、枷になる過去もある。秘密にしてしまいたい過去も、なかったことにしたい過去もあるだろう。
 けれど、どんな過去でもなかったことにすることはよくないと思っている。どんな過去でも、その人を作っているのだと、私は思っているからだ。

 この小説にも、過去に縛られた人がいる。柴山だ。
 そんな柴山がマツリカと出会ったのは、空の綺麗な日だった。雑居ビルから身を乗り出しているマツリカを見て、自殺すると思って放っておくことができなかったのだ。柴山は、マツリカにテストの点数やシスコンであることをばらすと脅されて、学校の怪談の調査をすることになる。その後、柴山はマツリカのことを強く意識するが、マツリカには柴犬扱いされて、無理難題を吹っ掛けられたり、使いっ走りをさせられる日々。そんな中でも、柴山はマツリカの要求に応えようとする。柴山は、マツリカに必要とされているのが嬉しかったのだ。
 柴山は、中学三年の時に半年ほど自宅に閉じこもっていた。卒業間近になって登校を再開したが、半年間に教室が変化していた。クラスメートとの間に見えない距離ができていた。高校に入っても、その空気は変わらない。柴山は、教室に自分の居場所がないと感じていた。だから、マツリカが住んでいる雑居ビルに居場所を求めたのだ。
 けれど、これはのちに柴山自身が否定している。自分が他者を遠ざけている、自分が何もしていないだけだと。そう思えるようになったのは何がきっかけなのだろうか。

 あの時に戻ってやり直したいと思ったことは、誰にだってあるだろう。けれど、過去は既に起こってしまった出来事で、もう変わることはない。
 変えられるのは未来だ。過去に縛られている現状を打破するには、自分の心の在り方を変えるしかない。心の在り方を変えて、過去に対する印象を変えるのだ。それは、自分との戦いといってもいい。
 自分と戦うことは、とても辛いことだ。自分が苦痛を受けることを前提としているからだ。相当の覚悟がなければ、自分だけでは変えられないと思う。では、どうすればいいのだろうか。
 私は、関わりが大切だと思う。人と出会って関わっていく中で、人の心は驚くほどに変わっていく。人と関わることで、人は強くたくましくもなれるし、弱く、脆くなってしまうこともある。けれど、弱くなることを恐れて人と関わることを避けていては何も前に進めないことを柴山が教えてくれた。

 新しい出会いは、人を大きく変える。それは直接の人との出会いに限らないのではないか。本の中の登場人物との出会いであっても、人を変えてくれるものだと私は思う。
 この本との出会いが――柴山やマツリカとの出会いが――あなたを変えるかもしれない。

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