クエーサーと13番目の柱

  • 『クエーサーと13番目の柱』

  • 阿部和重
  • 講談社
  • 1,575円(税込)
  • 2012年7月
  • 人気アイドル「Q」を24時間追跡するためのパパラッチ集団とそれを一人で雇うアイドルオタク。狂気と執着の狭間で物語は疾走する。現代のアイドルシーンへ切り込む問題作。

文学サイコー!

推薦文No.2-1
慶應義塾大学SF研究会

 大学で文芸サークルに所属しているような人間は「文学」が好きな者ばかりである。「そういや○○の新作出たけど文学的にどうだった?」「まあ××が文学に与えた影響は無視できないよね」「僕たち私たちのための文学」「文学はこの世の全て」「文学サイコー!」日々このような会話を繰り広げている者ばかりである。そのような人間がこぞって参加する催しがあって、大学読書人大賞という。

 今回推薦する阿部和重という作家も文学界の人気者の一人だ。デビュー作『アメリカの夜』で早速芥川賞候補。『インディヴィジュアル・プロジェクション』の成功で「J文学の旗手」として持てはやされる。数々の激賞を受けた現時点での代表作『シンセミア』は伊藤整文学賞・毎日出版文化賞をダブル受賞。四度目のノミネートとなった『グランド・フィナーレ』で無事に芥川賞受賞。その後『ピストルズ』で谷崎賞も受賞。着々と文学的にステップアップしている。
 さて、そうやって阿部和重を文学の中に閉じ込めておいて良いのか。

 阿部和重は現代を見ている作家だ。ネット掲示板、ロリコン、ブログ、テロリズム......。そういう現代的なモチーフを自然に組み込み、物語を構成してみせる。あまりに自然なので時に現実を先取りしてしまう。2013年の今、『無情の世界』を、『ニッポニアニッポン』を、そして『シンセミア』を読む時、現実の出来事の方に引っ張られてしまう。作品が先だと分かっていても。
 今回阿部和重が目を付けたのはアイドルだ。『クエーサーと13番目の柱』の主人公タカツキリクオはカキオカという謎の男に雇われ、彼のお気に入りとなったアイドル「Q」をターゲットにしてストーキングを行っている。新しい「Q」、エクストラディメンションズ(略してED)のミカをノートパソコンとスマートフォンを駆使しながら追い詰めるタカツキらストーキングチーム。しかしニナイケントという新入りの一人が不審な動きを見せると共にチームのメンバーが何者かに狙われ、襲撃されてゆく。ウォッチする側からウォッチされる側となったタカツキは......。
 冒頭でダイアナ妃死亡事故の詳細を語って始まる本作は、J・G・バラード『クラッシュ』を一つの下敷きにするかたちで進んで行き、そしてラストシーンで見事に、ある種感動的に、未来を引き寄せてみせる。一見これまでの阿部和重作品の集大成のようでありながらも、一線を画した新境地としてのラストシーン。その解釈が広く議論されてもおかしくないラストシーン。
 だが、正直に言って、結局本作も今のところ文学お墨付きのかたちでしか語られていないように見える。文学の中で、文学的に消費されていくだけ。
 阿部和重は常に現代を、今を見ている。しかし、阿部和重に常に、今も付きまとうのは文学の二文字ばかりだ。

 では、この状況に対して文学の側からできることは何か。阿部和重のような素晴らしい作家が『クエーサーと13番目の柱』のような素晴らしい小説を書いた時に文学の側からできることは何か。

 結局、賞をあげるしかないのだ。賞をあげて(和やかな授賞式と共に)、帯を付けて(「大学読書人大賞2013受賞」)、少しでも多くの人の目に付くようにするしかないのだ。文学の側からできることなんて、それしかないのだ。

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