遠野物語remix

  • 『遠野物語remix』

  • 京極夏彦×柳田國男
  • 角川学芸出版
  • 1,470円(税込)
  • 2013年4月刊
  • 日本民俗学の創始者・柳田國男の「遠野物語」を、読みやすく、分かりやすく、そして面白く。“怪異”作家と謳われる京極夏彦の手で今、新たな「遠野物語」が紡がれる。

作曲:柳田國男 編曲:京極夏彦

推薦文No.10-2
立教大学文芸批評研究会

 柳田國男に遠野物語。誰だって名前くらいは聞いたことがあるであろう。遠野物語とは、民俗学者である柳田國男が、佐々木鏡石から聞いた、遠野に伝わる奇譚の数々を一冊の本としてまとめたものだ。岩手県遠野で古くから語り継がれる民話、民間伝承、風習について、誰それから聞いた、何某が見た、だれそれが体験した、そういった前置きで始まる不可解で奇妙な出来事が何篇も収められている。そして、その中に登場する山神にヤマハハ、山男、雪女に赤い河童、神隠しに幽霊といったバリエーションに富む怪異たちは、遠野物語の顔とも言え、例え遠野物語を読んだことがなくても一度は耳にしたことがあるはずだ。
 『遠野物語 remix』とは、そんな遠野物語を、あの京極夏彦が現代語に訳した書籍である。決して、遠野物語に纏わるミステリーでも、遠野物語をベースにしたホラー小説などでもない。収録されている内容はあくまでそのまま。柳田國男が記した遠野物語とほとんど相違ないのである。
 遠野物語の現代語訳版はこれが初めてではない。説話集ではあるが文学性の高い文章で描かれた遠野の物語は名著として知られているゆえに、いくつもの現代語訳(または口語訳)がこれまでに数多く出版されている。
では、なぜ京極夏彦がわざわざ? ただ訳するだけの芸のないことをあの作家がするわけがないでしょう? そのとおり。
 この『遠野物語 remix』は単に柳田國男の文章を現代風に書き直しただけの書ではない。これはremixである。
 目次を見れば、内容が[opening][A part][B part][C part][ending]の五つに分かれていることが解る。原典では時系列もテーマもあっちへ行ったりこっちへ行ったり、非常に読者には不親切な形で各話が並べられていたのだが、それらを京極夏彦は奇麗に整理し、三つのpartに分けて構成し直したのである。そして、各話を京極夏彦独特のあの文体で、より小説らしく分かり易く現代語で再現した。また、endingと題された最後の章では、遠野に古くから伝わる獅子踊りの歌が収録されている。柳田國男は獅子踊りの歌について訳を残さなかったのだが、これに京極は彼自身の意訳を添えた。
 この本の著者は、表紙にもあるように「柳田國男×京極夏彦」だ。柳田國男が見聞した遠野の世界を京極夏彦がアレンジし、新たに作り上げた。それゆえタイトルにはremixの文字が添えられる。そして、京極夏彦曰く、この遠野物語は、短編集としてみたときに酷い欠陥がある。それが上記にあげた読者の存在を無視した構成であるのだが、そういった小説的な欠陥を補強し、かつ、柳田國男の美麗なる文を尊重し、そこに京極夏彦らしい要素を入れ込み、より物語らしい物語として作られたのが今回の『遠野物語 remix』である。柳田國男と京極夏彦、二人の鬼才によって描かれた世界が混ざり合い生まれた『遠野物語 remix』が平成の世においても、平地人を戦慄せしめることは、間違いないだろう。

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