know

  • 『know』

  • 野崎まど
  • ハヤカワ文庫JA
  • 756円(税込)
  • 2013年7月刊
  • 超情報化社会。人造の脳葉<電子葉>の移植が義務化された2081年の日本・京都。情報庁・官僚の御野・連レルが出会う少女、道終・知ル。彼女はすべてを知っていた。

「知る」ということ

推薦文No.12-3
中央大学文学会

 私たちが読書をしたいと思う欲求とは何だろうか。
 資格取得のための勉強であったり、それまで読んでいなかった哲学に触れることであったり、純粋に小説に描かれたストーリーを楽しむためかもしれない。
 そこにあるのは「知りたい」という純粋な好奇心だ。それは読書をする時の原動力であり、一冊の本を読み終えた時、また別の本を読む理由になる。 
 今、私たちの住んでいるこの世界には情報が氾濫している。
 クリック一つで、学問の知識が書かれ、それが素人であってもわかるようになるサイトがいくつもある。有名人について調べればその人の経歴だけでなく、出身地や食べ物の好き嫌いもわかるようになっている。物語ですら「ネタバレ」という言葉を加えて検索をすればその全容は明らかにされてしまう。
 情報通信技術の発展と共に、現在ではさとり世代と呼ばれる人々も増えている。自分たちの未来が調べることで大体予測出来てしまうからこそ、 高望みしない。出来ないことは出来ないものとして受け入れてしまう。「知る」ということによって先の出来事すら体験したような心地になってしまう。
 様々なことがわかってしまう。それでも私たちは本を読む。
 野崎まど『know』で描かれるのは現在の情報化社会から地続きの未来だ。私たちの住む現在からは遠く離れてはいるが、たしかに 延長線上の未来にこの作品は存在している。
 人々には人造の脳葉〈電子葉〉が義務化されており、人々は電子葉を介すことにより、ネットワークにアクセスし、人々の「知っている」ことが 格段に増えた超情報化社会を舞台とした物語。
 この作品において「知る」ということは極めて重要な要素になっている。既に「知っている」ことが私たちの住む今よりも遥かに多いにも関わらず。
 想像力とは今「知っている」ことの先を思考することだ。そして、その根底には好奇心がある。
 自分の知らない考えを知りたい。自分の知らない世界を知りたい。
 そうした人々の欲求、それはきっと情報が氾濫した今も昔も変わらない好奇心だ。
 今を超えて遠い未来、既に多くのことを知っている主人公の御野・連レルが「すべてを知る」ために自分よりも遥かに多くのことを「知っている」少女、道終・知ルと行動する『know』という物語。「すべてを知りたい」という好奇心。この物語は「知る」ということそのものを思考する作品だ。
 もし、日常で多くの事を「知っていて」つまらないと感じたら。
 もし、情報によって将来を「知っている」ように感じたら。
 この『know』はそんな「知っている」ということを変えてくれるかもしれない。
 自分の持つ想像力のその先へ、事象の水平線のその先へ。そしてその先を「知って」日常へと帰ってくること。
 それがきっと読書をするということだから。

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