富士学校まめたん研究分室

  • 『富士学校まめたん研究分室』

  • 芝村裕吏
  • ハヤカワ文庫JA
  • 756円(税込)
  • 2013年10月刊
  • 合理的なアラサー工学系技官の藤崎綾乃は、理不尽な職場への復讐をするためロボット戦車の研究に没頭するが・・・・。国防、恋愛にきな臭い極東情勢も絡んだ近未来SF。

わたしの最高のパートナー

推薦文No.14-1
京都大学SF・幻想文学研究会

 『富士学校まめたん研究分室』はふしぎな作品だ。

 主人公は三十歳の女性。専門は研究で、所属は自衛隊。人付き合いが苦手で、苦手すぎて勉強に逃げ研究に逃げて院まで進み、そうして就職活動の面接からも博士課程の面接からも逃げて自衛隊の研究企画分室にたどりつく。そこで口べたと人付き合いのなさとが災いしてトラブルに巻き込まれ窓際の意味のない資料整理に追いやられた。
 そんなとき、同僚から焚き付けられて持て余した暇を自主的な研究にへと注ぐことになる。好きな研究に没頭したいという思いと、優秀な研究をみせつけて左遷をした上司を悔しがらせてやるという思いを胸に。そして小型ロボット戦車「まめたん」の研究が始まる。
 
 主人公を研究へと向かわせた同僚は、MITへの留学時代に知り合った主人公が唯一まともに話せる男性で、たまたま同じ職場に就職していた。でも帰国してからは連絡を取ることもなく、職場でも部署が違ってたまに顔を合わせる程度になっていた。そして、この「まめたん」の研究を通じてもう一度接点を持つようになる。
 三十歳になる今まで男の人と付き合ったことのない主人公は、はじめは臆病で自分自身の気持ちすらごまかそうとする。わたしは彼が嫌いなんだと。そうやって不慣れなことから逃げようとして、言い訳を考え、それでもこの小説の雰囲気は暗くなったり鬱々としたりはしない。それから波乱もあり、顔から火が出る思いをしながらも、すこしずつ自分の気持ちを認め、素直になり、研究を手伝ってくれる彼にお礼も言えるようになる。そして左遷される前の元上司への研究のプレゼンを終えたとき、主人公の笑った顔を見た彼は顔を傾け照れをかくす。それは、その先に続く温かなしあわせと、平凡だけど得がたい日常を予感させる。

 その彼は、主人公にとって、気になる相手というだけじゃない。

 主人公は優秀な研究者だけど、人付き合いが苦手で口下手であがり性だ。「まめたん」の研究を進めていくには、それを認めさせるために上司や上層部にプレゼンをしなければいけないし、実際に使う自衛官たちの意見や要望を聞いてマーケティングをしなければいけない。でも内気な主人公にそれはできない。そんな主人公の代わりに、彼が周囲との交渉を担い、研究を進める場を整えてくれる。
 人付き合いが苦手だが一流の技術を持ったギークと、技術に理解のある優秀なプレゼンターが出会うとき、そこにはいつも革新の予感がある。スティーブ・ヴォズニアックとスティーブ・ジョブズが出会ったとき、アップルが生まれた。そして主人公と彼が出会ったとき、「まめたん」の開発は自衛隊の一大プロジェクトになってゆく。

 これは一組の最高のパートナーが生まれていく様子を描いた作品だ。
 ちょっと手に取って読んでみてほしい。きっと素敵な気分になれるはずだから。

推薦文一覧へ戻る

最終候補作品

候補作品