富士学校まめたん研究分室

  • 『富士学校まめたん研究分室』

  • 芝村裕吏
  • ハヤカワ文庫JA
  • 756円(税込)
  • 2013年10月刊
  • 合理的なアラサー工学系技官の藤崎綾乃は、理不尽な職場への復讐をするためロボット戦車の研究に没頭するが・・・・。国防、恋愛にきな臭い極東情勢も絡んだ近未来SF。

最優秀推薦文

どんな状況でも、彼女は研究をする

推薦文No.14-2
大阪大学SF研究会

 「研究」と聞いて何を想像するだろうか。先例研究を参考にしながら、ノートで理論を組み立て電卓やコンピュータを使い計算し、実験や観測を繰り返し、最終的に自分の言葉にして発表をする。多くの人はこんなことを想像するだろう。

 『富士学校まめたん研究分室』はそんな研究だけに心血を注いで大学生活を過ごした結果、行き遅れてしまった上に、職場でのトラブルによって干されてしまった三十歳の工学系女子、藤崎綾乃がやけっぱちで戦車ロボット「まめたん」を作ろうと研究を始める物語である。ロボットという単語からピンと来る人もおられるだろうが、本作はミリタリーとSF、そしてそれに加えて恋愛が絡んだ内容になっている。しかし、それだけだと、どうして「大学生に薦めたい作品」なのだと疑問に思われる方もいるだろう。

 本作において大学生に薦めたい特徴は二つある。第一は、研究過程と研究の結果による悲喜こもごも様々なドラマが描かれているということだ。当初、綾乃が一人で研究していた「まめたん」は作中で急変する東アジア情勢に伴い、急ピッチで開発が進み、最終的には殺戮兵器と化す。前半で描かれる「まめたん」のコンセプトは専守防衛や災害時の救助といった自衛隊らしさと、人間でもできることを人間の代わりにやる、低コスト大量生産小型ロボットという日本っぽさの二つが合わさったものだった。そんな前半ののほほんとしている開発にいたるまでの展開と、「まめたん」が兵器としての恐ろしい力を発揮する後半部分はギャップがあって面白い。こうした研究過程というものは、技術方面に興味がないと辛いと思われるかもしれないが、上層部受けを狙って研究のプレゼンを行うところのような政治的なシーンと、技術者たちが必死で開発を進めるシーンがそれぞれよく描かれており、ロボット技術に詳しくなくても読みやすくなっている。

 そして、もう一つの薦めたいところが、綾乃の研究に対する感情描写である。憂さ晴らしで行っていた研究が、本格的な開発へと進むところを通して描かれる喜びが描かれる。その一方で凡庸な作品で描かれそうな自分の開発した兵器が人を殺すことへの悲しみといったものはさほど描かれていない。死に関わるロボットは作ったから今度は生まれる方、子育てのロボットを作りたいと述べられてさえいる。このような綾乃の研究へのドライで、根本においては自分本位な姿勢と理屈っぽくて面倒くさそうな雰囲気が、ちょっと世間ずれしている「研究しか能がない」研究者らしさを能弁に物語っている。

 大学生は、自分がどうして研究をやっているのかや、その研究の成果が出るのかといったことで悩みを抱えることがあるだろう。本作は、研究に対して肯定的に描かれており、研究理由が傍から見れば下らないことでも、結果が人殺しに使われようとも、研究によって幸福になることができた研究者が描かれている。 研究は辛く苦しいことも多々あるが、研究によって自分自身が救われることは間違いなくある。本作を読んだ大学生はそう感じることができるはずだ。

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