折れた竜骨 上・下

  • 『折れた竜骨 上・下』

  • 米澤穂信
  • 創元推理文庫
  • 各651円(税込)
  • 2013年7月刊
  • 12世紀のイギリス、魔法の存在する世界。ソロン諸島領主の娘アミーナは、ある晩父が何者かに殺されているのを知る。魔法の絡んだ密室殺人の犯人は? 魔法と推理が融合する!

論理(ロジック)×魔術(ファンタジー)

推薦文No.3-1
大東文化大学國文學研究会

 一二世紀末、ロンドンの北の海を進んだ先に存在する小さな島、ソロン島の領主の娘アミーナは、恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士の魔術によって父を殺されてしまった。暗殺騎士を追う騎士ファルクとその従士ニコラは、暗殺騎士は他人を意のままに操り、標的を殺す魔術によってアミーナの父を殺したのだと判断し、その操られた<走狗(ミニオン)>候補者の8人を調べ始めた。容疑者達は、かつてアミーナの祖先により封印され、甦った不死の存在、「呪われたデーン人」の襲来の備えにアミーナの父が雇った人物達であった......。
 ここまで読んで、ミステリーに魔術とか、反則じゃないの?と思った方もいるだろう。しかし、ちょっと待ってほしい。
 たしかに有名な「ノックスの十戒」や「ヴァン・ダインの二十則」には探偵方法に魔術を使ってはいけないといった旨のことは書かれてあるが、それは、通常の事件を解決するのに魔術を使ってはいけないということであって、犯人側が魔術を使うなら、探偵側が魔術を使うのはフェアだ。それに魔術と言っても、トンデモな存在ではなく「こういう条件でなければ、相手に魔術をかけることは出来ない」「こういう行動を起こしたのは彼が<走狗>ではないからだ」などちゃんと論理的に解説されている。暗殺騎士の魔術によって誰が操られたのかという論理はミステリーにとって不可欠な、フーダニット、ハウダニット、ホワイダニット(誰が、どのように、なぜ)のフーダニットに合致するし、形を変えてこそいるが、反則どころかむしろシャーロック・ホームズシリーズや、エラリー・クイーンシリーズに通じる、直球ど真ん中な王道のミステリーと言えるだろう。
 そして何より作者、米澤穂信氏が巧みなのはミステリーと魔術と言う、この相反するといってもよい分野を違和感なく融合させているということだ。小説に限らず二つの分野を組み合わせると、どちらかに偏りが生まれもう片方は疎かになりがちだ。ましてや、魔術というのは極端に言えば一から十まで非現実的で、ミステリーというのは、ロジックを解き明かしていくという意味で非常に現実的だ。しかし、この小説ではどちらかが、疎かになるということは決してない。むしろ、互いが互いをアクセントとしてより際立たせている。水と油のごとく違う二つをこうも溶け込ませることが出来るのは、それこそ一種の魔術だろうと言いたい。
 米澤穂信氏が用意したこの素敵な魔術にかかってはいかがだろうか。ミステリーに触れたことがない人も、ミステリー作品に多く触れたことがある人もこの作品の世界観を楽しめるはずだ。きっと素敵な時間を味わえることを保証しよう。最後に作中のファルクの言葉をお借りしてこの文章の締めにしたい。
「何も見落とさなければ真実は見出せる。理性と論理は魔術をも打ち破れる。必ず。そう信じることだ」

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