折れた竜骨 上・下

  • 『折れた竜骨 上・下』

  • 米澤穂信
  • 創元推理文庫
  • 各651円(税込)
  • 2013年7月刊
  • 12世紀のイギリス、魔法の存在する世界。ソロン諸島領主の娘アミーナは、ある晩父が何者かに殺されているのを知る。魔法の絡んだ密室殺人の犯人は? 魔法と推理が融合する!

探偵と魔法と真実。世界を変えるもの。

推薦文No.3-2
立教大学文芸批評研究会

 不穏な空気は既に流れていた。冬を前に盛り上げる市場とは対照的に、孤島に住む領主は呪われたデーン人が襲ってくる事を恐れ、傭兵を集めていた。また、聖アンブロジウス病院兄弟団と名乗る騎士とその弟子が城を訪れ、領主が殺害される可能性を告げた。彼らが帰った後、悲劇は起きた。美しい満月の下、領主は警告も虚しく殺された。領主の娘アミーナは、洞察力に優れ魔法を使う探偵である騎士と弟子に領主殺害の犯人を探すことを依頼する。騎士と魔法と呪いというファンタジーの要素と、孤島の城と探偵と犯人探しというミステリの要素が濃密に絡み合う。そうして気付くと私たちはアミーナと共に事件の真相とその残酷さ、不条理さに対面している。
 物語は、基本に忠実なミステリとファンタジーの美しい手際をもってそれぞれの真実への手がかりとなる情報を集めて進んでいく。そして、魔法が科学を暴き、理性と論理は魔法を打ち破る。残るのは真実で、それを導き出した探偵である。
 魔法は、わからないものや不思議な力ではなく、技術で、力で、手段だった。必要な道具、制約、定められた手順、もたらされる物は答えでなくて真実への手がかり。それは科学とあまり変わらない。そもそも私たちが使う機械だって私たちからすれば魔術と同じだ。使用者である私たちはそもそもどういうことが中で起こっているか、どんな理由でそれが起こるのかすらわかっていない。私たちにはこれらのルーツ、ルールをしらないままに"使い方"しかしらない。魔法も科学も関係なく本当に必要なのは、どんな探偵が手がかりとなる情報を得、どんな真実を導き出すのかである。
 この本を大学生に読んでもらいたいのには理由がある。それは真実とその残酷さを受け入れることで次へ進めることを実感して欲しいのだ。道具によって変容させられることを受け入れ、次に進む彼らを見て欲しいのだ。真実と探偵は決してただの事件解決の道具ではない。魔法と推理により真実と探偵は傍聴者に新しい世界を見せる。今まで見ていた世界が探偵の話す論理と証拠を元に、違う世界へ変貌させられる。自分の自明と思っていたことを変更せざるを得ないのだ。私たちは真実を知ることで新しい世界を知っていく。その先に進むことを恐れてはならない。

推薦文一覧へ戻る

最終候補作品

候補作品