昨日まで不思議の校舎

  • 『昨日まで不思議の校舎』

  • 似鳥鶏
  • 創元推理文庫
  • 714円(税込)
  • 2013年4月刊
  • コミカルな学園ミステリ・シリーズ第5弾! ミステリーの複雑さ、スピード感はシリーズの中で一番力が入ってます! 七不思議に興味がある方は是非、読んでみてください!

理由にならない理由

推薦文No.5-3
東京理科大学読書クラブ

 ミステリは勧善懲悪の物語であるといわれている。論理という万人の正義で、謎という混沌を解き明かしあるべき秩序を取り戻す。悪―犯人自身であれ、社会のもたらしたものであれ―はそこで白日の下にさらされる。けど、この本を読むたび思うのだ。そう白黒はっきり付くものでもないと。

 何となく校舎から感じる、暗く異質な雰囲気。それを意識しつつも、何でもない日々を過ごしていた葉山の耳に入ったのは、「市立高校七不思議」の一つ『カシマレイコ』を呼ぶ放送だった。密室である放送室、誰が、何のためにこのいたずらを? いつものように、友人達と事件に取り組もうとする葉山の前に、また七不思議を元にした事件が現れる。はたしてそれらには関係があるのか。

 本作品は似鳥鶏の「理由あって冬に出る」から始まるシリーズの第五作目だ。このシリーズは部活の盛んな千葉のある市立高校、その美術部のたった一人の部員である葉山とその先輩や友人達、そして探偵・伊神の周りで起こる謎を取り扱った本格ミステリである。軽やかな文体と、愉快な登場人物達や所々に入る注釈のコミカルな雰囲気が特徴的だ。この作品単体で読んでもらってもかまわないが、七不思議の一つである『壁男』は「理由あって~」で扱われ、またそれが事件の小さくない部分を担っているので出来ればそれだけでも先に読んで欲しい。
 このシリーズを通しての特徴として、犯人の動機が挙げられると思う。彼らの多くは能動的だ。他からの圧力で止むに止まれずしたことでなく、自らの考えで事件を起こしている。けれど、それははっきりした理由の元行われたかというとそうでなく、どこにでもあり得るちょっとした違和や齟齬が形になったものだったり、馬鹿らしいと一笑に付されるようなものであったりする。その動機だけ聞けば、迷惑で自分勝手だと思われるかも知れない。けれど読んでみたらきっと分かる。彼らがそれに一生懸命に悩んだということが。そこにあるのはどうにもならない感情である。そしてそれこそが北村薫の言った、謎以外に何もつけまいとした本格ミステリに生まれ得る『一つの魅力的な《物語》』に近いものなのだろうと思う。
 そういった話であるため、謎を解いてもそれで解決、というわけにはいかないこともある。さらに今回彼らの前に現れるのは、間接的でも彼らの存在によって起こった事件、そして今までにない、より明確な、だけど手の届かない悪意だ。それでも、葉山達は悩むことを止めない、そこにこの物語の良さがあるのだ。

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